退職届をカバンに入れて出勤する朝


恭子はいつもより30分早く起き出して


熱いコーヒーを啜っていた


そういえば昨夜久しぶりに


はっきりと記憶に残る夢を見た


真夜中の公園


ぽつんと灯りがともっていた


恭子は裸足で灯りに近づいて行った


「こんな場所で焚き火?」


「見つかったら誰かに怒られない?」


焚き火の側に座っている女性の


後ろ姿に話しかける


自分にそっくりな女性が一瞬こちらを見て


また興味無さげに焚き火の方へ向き直った



ゆらゆらゆら


恭子はしばらくの間そこに立って


変幻自在にゆらぐ小さな炎を見つめた




東向きの窓から朝日が差し込んできた


恭子はコーヒーを飲み干すと


いつもの手順で出勤の準備をして


少し早めに家を出た


通勤路の側にある公園


いつもなら素通りするところだが


昨夜の夢が気になって


恭子は寄り道していく事にした


仕事を辞めたら引っ越して故郷に帰る


もうこの公園に来る事もなくなるだろう



昨晩、夢の中で裸足で歩いた感触が


蘇ってくる


ちょうど焚き火をしてたあたりに


黒い焦げ跡があって


恭子は不思議な気分になった



ふと退職届が気になって


カバンの中を探るけれど


見当たらない


昨日、準備して確かに入れた筈なのに


恭子はカバンの中身を全部取り出し


そこら辺に広げて見たが


やっぱり無い



「こんな場所で焚き火?」


「見つかったら誰かに怒られない?」



恭子が振り向くと


自分にそっくりな裸足の女が立っていた