松山は仕事の手を緩めず


しかし、微妙にソワソワしていた


明日は青春18きっぷの発売日


それを毎年楽しみにしていた


同時に今の仕事の相棒が


学校の卒業やら就職やらで辞めてしまい


また春先には新人に一から


仕事の手解きをしなくてはならない


それが少し憂鬱だった






松山は地方の大学を出てからずっと


司法試験の勉強を続けていた


漠然と自分の天職は弁護士だと思っていた


だが試験に受からないまま30を過ぎ


気がつけば40も過ぎようとしていた


昼間はゼンリンのバイトで


仲間とバンに乗り合わせ目的の町で


精密な住宅地図と実際の家やインフラが


地図通りかどうか歩きながらチェックする


日給は5000円だった




朝と夜は老舗旅館で布団の上げ下げの仕事


こっちはひと組いくらの稼ぎ


ふたつの仕事掛け持ちで家賃3万5千円の


ワンルーム暮らしを続けるのがやっとだった



今年はどこへ行こう?



九州がいいかな


松山は仕事の手を止めず考えている



昨日の食事中に欠けた奥歯は


とりあえず瞬間接着剤で何とかおさまっている


今一緒に布団を敷いている若者は


春から大手銀行に就職が決まっているようだ




また春には近くの大学の新入生が


ここのバイトに応募してやってくるのだろう


そして自分の薄くなってきた頭髪に気を遣いながら


仕事の段取りをいろいろ聞いてくるのだろう





夜の布団敷きが終わって


従業員用のまかないをいただいた後


今日は久しぶりに旅館の


露天風呂につからせてもらいながら


次の旅行先に思いを巡らせる




何だかわからないけれど


何に期待しているのかも知れないけれど


何となく


やっぱりソワソワして


松山は火照った顔を半分お湯に沈めて


円い月を見上げた