額に汗が滲む蒸し暑い日


交差点の信号待ちで僕は


ふと子どもの頃の遊びを思い出した



横断歩道のしましまの白い部分が陸地で


黒い部分は奈落の底




僕は慎重に白い部分だけに跳び乗って


なんとか無事に向こう側まで渡ると


それは小さな達成感ともに


僕の退屈な通学時間の


気を紛らわせてくれた





うだるような暑さの中で


街には


きちんとした服装のサラリーマンにOL達が


たいして美味しくも無い安い弁当の


移動販売店に群がっている



僕にはその姿が


子どもの頃に想像した


自分の将来像に重なって


正視できない感じでその側を通り抜けた





やがてアスファルトの黒い部分から


マスクをつけた無表情の人々が


飛び出して来て


惚れ惚れとするような美しいバタフライで


またアスファルトの中に飛び込んで消えた







彼らが蠢いているアスファルトは


灼熱の逃げ水となって僕の近くに


出現しては消えて行く





僕は顔から滴る汗を手の甲で拭って


それを舐めてみた




少ししょっぱい味がして


それで、なんとか正気を保つことができた




一歩歩くごとに


熱で柔らかくなったアスファルトに


足がめり込んで行く


やがて僕は腰のあたりまで道路に埋った


そしてしばらく逡巡した後に僕は


誰にも教わった事も無い筈の


完璧に美しいバタフライで


そのアスファルトに飛び込んで行った