黄昏時


なんとは無しに


ドブの臭いのする通りをあるいていた


歩き疲れて


欄干の上から用水路の流れを見つめる




子どもの頃


ここからの眺めが大好きだった



柵に引っかかった


ありとあらゆるものを


ズボッズボッと大きな鯉が吸い込む




欄干のたもとには


銭湯と魚屋と八百屋とおもちゃ屋があった




魚屋の見事な包丁さばき


緑色の紙に包んでもらったお刺身


八百屋のおじさんのダミ声


風に揺れるおもちゃ屋の


プラスチックのお面と刀


銭湯から真っ赤な顔で出てくる人達




祖母の背中から見える景色は


その頃の


自分の世界の全てだった




今も変わらず


ズボッとズボッと


鯉が柵に引っかかった


ゴミとも餌ともつかないものを吸い込む音が


不定期に響いてくる





銭湯も八百屋も魚屋も


いや商店街そのものが


ショッピングモールにとってかわられ


ただ鯉のゴミをを吸い込む音が


虚しく響いている





時代にそぐわないものが


消えて行くのは


いた仕方のない事なのかな?




そう言う自分も


良いものか悪いものかも知らず


急かされるように


一心不乱に何かを吸い込もうと


ただ足掻いている、、、