その日僕は潮の匂いが嗅ぎたくなり


早朝から砂浜を歩いていた



少し冷たい海風には


潮の匂いにほんの少し


甘い匂いが混ざっていて


それは少年時代の夏休み


早朝から友達と虫取りに行こうと


自転車のペダルを漕いでいる時に


嗅いだ事のある風の匂いに似ていた



裸足になって砂浜を歩く




水に濡れた砂の上は


足の裏がくすぐったかった


細波に洗われる砂浜を散策すると


半透明な水色や翡翠色、赤紫などの綺麗な


かけらが幾つか浜辺に打ち上げられていた


波に洗われて角の取れた綺麗なかけらは


まるでお菓子みたいで


子どもの頃


誰かのお土産で貰った


ジェリービーンズを


初めて口に入れた時の事を思い出した



僕は片目を瞑って赤紫色の粒をひとつ


開けている方の目に近づけて


朝日を透かしてみた



やがて小さなかけらの中の世界は


じんわりと広がり


僕をその中に迎え入れてくれた






カランと乾いた大きな音がして


僕はハッとした





ボーリングのピンが弾け飛ぶ音だった


そうだ


同僚と飲み歩いているうちに


変な勢いがついて


ボーリングをしたくなったのだった


隅っこに2本ピンを残して


機械で手元に戻って来た玉は


綺麗な赤紫色だった


僕は残ったピンめがけてその玉を投げる


だが無情にも玉はピンにあたる直前に


溝に落ちて機械の中に吸い込まれていった





僕はつまんでいた


赤紫色のかけらをそっと水の中に戻し


今度は翡翠色のかけらを目にあててみた、、、、