寒い日だった



太陽が照っていた束の間


路肩に駐めてある軽自動車の


フロントガラスに


蝿が一匹とまってジッとしていた




僕はそっと手を伸ばし


掌をゆっくりとその上に被せた





七色のメタル調に光る蝿は


僕の手の中で暴れまわるでもなく


ジッとしてるみたいだった





義足の老人がゆっくりと歩いていた


戦争で負傷して


両足の先端を無くしたらしかった


そんなに高価には見え無い


バケツに似た不細工な義足は


歩くたびにカッポカッポと変な音がした


それがこの学校での最後の記憶だった






ある年


僕の通った古い建物の学校は


いちご雲から放たれる豪雨で


裏山の崩落と共に土砂に埋まった







みぞれ混じりの雨が降っていた





一日中外回りの営業をして


ようやくひと段落ついた




僕はかじかんだ手を


自販機で買ったコーヒーで温める





そっと開いた掌の中から


七色に輝く蝿の死骸がひとつ


不意に現れた時に


そんな記憶が蘇った







コーヒーを飲み干し


同僚の待っている車に乗り込む




そしてまた僕は


退屈な高速道路の風景の中に


埋没していった