その日男は会社からの帰宅途中



自宅の近所の道端で


翡翠色の欠片を拾った



親指の爪くらいの大きさ


軽く透けて見える深い翠色の欠片は


まるで魚の鱗の様な形をしていた






その夜 男は


いつもの晩酌にちょっとばかし勢いがつき


ふらふらしながら布団に潜り込んだ



拾ってきた欠片を枕元の電灯で透かして見ると


不思議な模様が浮かび上がって来る


それを何となしに眺めているうちに


いつのまにか眠りについた






東北を旅していた


随分と寒いが


枯れ草の上に雪は積もっていなかった


川沿いの道を歩いていると


ダイバースーツを着込んだ男が川の中にいて


何か漁をしてるみたいに動き回っていた



こんな寒い日に水に入るなんて


みているこっちの方が


凍えそうな気持ちだった



しばらくその男の行く方へつられて歩くと


小さな東家のある公園に着いた


何人かの男が公園に座っていた


川の方へ目を向けると


竿が3本立てかけてあった


その中の一番小さな竿が魚が掛かった様に


しなっていた


男は公園にいる誰かの竿だろうと思い


そっちに向かって


魚が掛かっているぞと叫ぶ


男が一人慌てて竿を取りあげ


リールを巻いて仕掛けを上げるが


何も掛かっていなかった


男はバツが悪くなり


そそくさとそこを離れた




しばらく田舎道を歩くと


小さな石橋があった


渡った先に窪みがあって


よく見ると苔の様な


緑色の皮膚の生き物が


そこで眠っていた


アヒルの様な口と甲羅


どう見ても河童だった



こんな寒い日に


川に引き込まれるのはごめんだ、、、



男は怖くなってそっとその場から離れ


橋の反対側にそっと息を潜めて隠れた




そのうち陽がかげってきて


何処からともなく


ざわざわと音が聞こえて来た



いつにの間にか


大勢の人が集まってきて


橋を渡っていた



男もつられて一緒に橋を渡った




さっきまで


田んぼに囲まれていた場所に


いきなり賑やかな町が現れた



さっき見た河童は


この町の観光名物の様で 


河童の人形やキーホルダーが


お土産で売られていた




いつだったかは思い出せないが


初めて来た場所ではない気がする



男はしばらく人の流れに沿って


あちこち歩き回った


自衛隊の古いヘリコプターが置いてある


公園があった



お腹が空いていたが


このあたりにはあまり


食事できる店がない事を


何故か男は知っていて


店を探すことは諦めた



さんざん歩き回って


また石橋のところまで戻って来ると


窪みの中で河童が寝ていた


その肩の辺りに鱗が一枚


剥がれた様な痣があった