真夜中の山中
宵夜燈の灯りは
暖かいオレンジ色で
そこだけが別世界だった
岩魚の骨酒の余韻に浸りながら
久しぶりの店内を見回す
目の前の白狐は
いつのまにか白髪のおかっぱ頭の
お婆さんに姿を変えていた
そして
カウンターに座っていたはずが
目の前には大きな丸木のテーブル
その上にはガラスの金魚鉢があって
鮮やかな黄金色の金魚が一匹泳いでいる
お婆さんがいつかの様に
「 金魚は何色に見える?」
そう聞いたので
見たまんまの色を答えると
お婆さんは店の奥へ消え
やがて黄色い液体の入った
ガラス瓶とグラスを持って来た
よく見れば瓶の中に
猿梨の実がいくつも浮かんでいる
自分で注いで飲めと言うことかと思い
グラスに半分
慎重に注いで口をつけると
甘酸っぱい香りが口に広がった
すると辺りは急に明るくなって
私は山の中にポツンとひとり立っていた
目の前の木に
猿梨の実がたわわになっている
子どもの頃
遠足で行った山中でこれを見つけた時は
嬉しかった
そんな事を思い出しながら手を伸ばす
実に触れたと思った瞬間
つむじ風が起こって
辺りがまた暗くなった
いつのまにか自宅の前に立っていた
小さな街灯がオレンジ色の灯りを
私に灯してくれている
酔い醒めの寒さに耐えきれず
私はそそくさと家に入った
そして
手に持っていた猿梨の実をひとつ
口に放り込み、ゆっくり噛み締めた