「身代わりは猫の筈だ」






僕はそう叫んだ





理由は忘れた






自分はもう助から無いのだと悟った瞬間に



咄嗟にそう叫んでいた





愛犬の散歩をしていた






風に揺れるしっぽが可愛くて




何かに似ていると思って見ていた





そう 



ネコヤナギの穂だ





じっと見つめる




やがて僕は



そのしっぽの中に吸い込まれて行った







薄紫の空



何故かイカとかタコとか海の生き物が



空を漂っていた





体重0グラム



僕は青臭い風の中を優雅に漂っている





でもネコヤナギの細い毛が唐突に鼻をくすぐると




一瞬で現実に引き戻され



僕は自分の体重を受け止めきれず


地上に落下した






しばらくして気がつけば



蒸し暑い夏の昼下がり



愛犬が隣でイビキをかいていた






そんな幸せな光景は



いかにも非現実的だった



僕は妄想を降り払い



転がっている猫の死体に手を伸ばす






そして鼻先の草をちぎり



無造作にポケットに突っ込むと



もう弾が切れている銃を抱えて



真っ白な光の中に突入して行った