次週に奈保子日記の大ネタが控えていますので、いまのうちにユルい世間話をしておきたいと思います。

 

 


相手の反則行為で負傷した児童に対しては、まず大前提として、まことお気の毒に思います。
その上で複層的に、異なる考えもあります。
相手に無防備に背中を見せたのは、やはり迂闊で未熟でした。ルールは100パーセント、競技者を守ってはくれません。ルールを破る者はいるからです。「あってはならないこと」が、されど「ある」のが現実です。したがってルールのある競技と云えど、「真剣勝負」であることを忘れてはなりません。

世の正論から云えば、彼に一切の非はありません。彼は一点の落ち度もない、被害者です。しかし、そんな「世の正論」は、彼を守ってはくれません。現に彼の相手はルールを破り、彼は怪我を負ったのです。
あの年頃の子供に告げるには、酷な教えです。早過ぎる経験――世の悪しき部分の洗礼だったとは思います。

願わくばこのことで道を誤ることなく、この経験を教訓として活かし、さらなる高みを目指してほしいと思います。
その対戦者の児童に対しても。指導者は選ばなければならない。愚かな指導者を信じ、従っていたら、自分まで巻き添えを喰うことになるのだということを。

それはなにも、「試合」そのものや、「格闘技」に限った話ですらありません。
自称ファンからの差し入れ、対戦相手が差し出すドリンク、そんなものを口にしてはなりません。どんな薬物が盛られているか、知れたものではないからです。
それぐらいの警戒心はもっているのが当然で、やられるほうが間抜けなのです。それを「卑怯」となじる者に、少なくとも「武道家」を名乗る資格はありません。

一条ゆかり『プライド』第1巻より
――一条ゆかり『プライド』第1巻より

『刃牙』シリーズの愚地独歩せんせいも、きっと同意見だろうと思います。

愚地独歩(おろちどっぽ)
板垣恵介『グラップラー刃牙』ほか『刃牙』シリーズの主要な登場人物。空手家。実戦空手道場「神心会」の創始者にして総帥。


さて、本題はここからです。
けれども、愚地せんせいがその「本心」を吐露するのは、徳川光成翁に招かれた座敷などの「密談」に限られるでしょう。
もし彼が件の大会の主催者責任者だったとしたら、どうしたでしょう。すかさず遺憾を表明、加害者側に厳罰を下したに違いないと思うのです。

それを「ずいぶんと云ってることが違うじゃねえか?」と本部以蔵あたりにからかわれたりしたら、「云うねい。おいらだって辛ぇんだよ。大所帯を経営するってのはよぉ」などとスネたような表情で、こぼしていたのではないでしょうか。

大事なのは、ここだと思います。
公的な立場に身を置く人間は、公的な発言、公的な態度を厳しく問われるのです。
ここが大事なのです。本心がどうであれ。

 

ワタシのような何者でもない私人が私的に口にするぶんには許される――というより誰も見向きもしないが故に見逃される――発言、態度も、公的な人間が公的に場所でしたら許されない。そうしたことは、いくらでもあるのです。

愚地独歩がXあたりに、だらしなく本音を垂れ流したら、間違いなく神心会は潰れるでしょう。
件の主催団体、道場、「行け!」と声を発したセコンドの指導者は、そこのところのわきまえがなく、脇が甘かったと云わざるを得ません。
彼らはおそらく自分では「武道家」のつもりでいたのだと思います。
この厳しさが「武道」なのだと。

しかし、現代という「社会」の渡り方、「社会」との渡り合い方をわかっていない「武道家」って、「武道家」として果たしてどうなのか? そこのところは、その道を志し、門を叩く人間は、よくよく考えてみる必要はありそうです。


2024.11.21 一部変更