ワタシは令和になって『おしん』をちゃんと全話視た人間です。令和になってちゃんと河合奈保子ファンになり直したワタシらしいと云えばらしい。
その立場で云わせてもらえば、小林綾子パートばかりフィーチャーされるのが口惜しい。まるでそこが全てであるかのような? 事実その部分だけで劇場映画になったり、アニメーションになったりしています。

『おしん』38回より

――『おしん』38回より

前にも云ったと思いますが、何度でも云います。ジュリーの奥様になる前の、ヒロイン・田中裕子さまの美しいこと、かわいらしいこと! このためだけにNHKオンデマンドに会員登録して、決して後悔はしませんよ。
夫が人生の大勝負を懸けた工場が完成、式典が開催されるまさにその当日、関東大震災に見舞われ全壊するという悲劇。幼少期の大根飯など、かわいいもの。
全てを失った、おしん夫婦は、夫の佐賀の実家に身を寄せるのですが、そこで味わう昭和世代のおっさんでさえも辛くなるほどの姑の壮絶すぎる嫁イビリ!
そんなおしんが戦後、キャストを乙羽信子に交替して、自分が姑の立場になると、今度は息子の嫁が気に入らない……。哀しくも愛おしい、人間性のリアルに迫るヒューマンドラマ。おしんという一人の女性の一代記であり、群像劇です。

『おしん』の小林綾子パートは、あくまでも少女編。他と同様に朝ドラのプロローグです。小林綾子パートは約一カ月もの長尺でしたが、それは『おしん』の放映期間そのものが一年(通常の倍)に及んだわけですから、比率においても他と大差ありません。
にも関わらず、小林綾子パートばかりがフィーチャーされる理由については、なんとなく見当がつきます。小林綾子パートは主人公が少女であること、明治という時代を舞台にしている点だけをとっても、橋田寿賀子ドラマとしては特異で特別でした。これが田中裕子パート、乙羽信子パートになるに従って――特に戦後の現代に舞台が移った乙羽信子パートに及んでは、おなじみのいつもの橋田寿賀子ドラマ。
よくぞ泉ピン子をおしんの母親という、昔の人物の役にしてくださったと思います。これが息子の嫁役で現代パートに登場した日には、キャストにえなりかずきを探してしまうところでしたよ。

ワタシの知識認識に間違いなければ、ヒロインの老後のキャストを交替したのは、『おしん』のあとは『カーネーション』(主演・尾野真千子)だけだったと思います。
『おしん』のそれは、既定路線でした。なにしろ第一回に登場するのが、乙羽信子なのです。
スーパーたのくらの新店オープン式典の当日、創業者である田倉しんは姿を消す。一族、関係者の大騒動を描いた第一回のラストもラスト、ひとり東北へ向かう特急列車でおかきをつまむ田倉しん=乙羽信子が登場する。
科白はありません。なんと朝ドラの初回で、ヒロインがひと言もしゃべらないのです!
ドラマの壮大さを予感させるオープニングですが、このことはのちに『カムカムエブリバディ』(2021)でメタ的にジョー=オダギリジョーが娘・ひなたに同じことを語っていました。



行方知れずとなった、おしんを彼女の気に入りの孫である圭=大橋吾郎だけが、わずかな心当たりから彼女の居場所にたどり着く。そんな圭に、おしんはこれまでたどってきた自らの人生を語り始める――。
そう、『おしん』の物語とは「タイタニック」と同じ、老婆の昔語りなのです。

ですが『カーネーション』は、それとは事情が異なります。
聞くところによれば、老後パートのキャスト変更が本人に知らされたのは、撮影が始まった以後だったそうです。当然のように最後まで自分でやる気まんまんだった尾野真千子さんにすれば、悔しかったでしょう。
コシノ三姉妹をモデルにした主人公の娘たちとの関りを軸にしたドラマには、老けメイクの尾野真千子ではなく、リアルに相応の年齢である女優・夏木マリをキャスティングしたのは正解だったと個人的には思いますが。


https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2024071931914

あさイチ プレミアムトーク 尾野真千子(配信期限 :7月26日(金)午前9:53まで)

遅咲きのアイドル好きとして、『てっぱん』(2010-2011)をヒロイン・瀧本美織目当てに視たワタシを「朝ドラ好き」にしてくれたのは、続くドラマ・『カーネーション』であり、そのヒロイン・尾野真千子さんだったと思っています。
「あさイチ」プレミアムトークに尾野真千子さんが登場しましたので、久しぶりに『おしん』語りをしてみました。

尾野さんは現在、『寅に翼』の「語り」をつとめています。
彼女はいずれキャストとして、重要な役どころで登場するのではないか? そう予想しています。
過去のリベンジとして、ヒロイン・寅子=伊藤沙莉の老後をやるとなったら面白い。ですが、さすがにそれはないでしょう。
いくらなんでも、若過ぎる。まだまだ四十代の尾野真千子が、老けメイクで寅子の老後を演じるとなったら、伊藤沙莉も素で「はて……?」と口にするに違いありません。