第8週 「1951-1962」
第9週 「1962」


前回のカムカム日記は、完全にあらすじドラマナビでした。ほとんど浜村淳の映画紹介。それでも我ながら面白く仕上がったと思えるのは、ドラマの力です。

 


ワタシらしいオリジナリティと云えば、浮気戦隊チガウンジャーぐらい。この戦隊にどんなヒーロー戦士がいるのか? せっかくですから、もうちょっと掘り下げてみようと思います。キャストも自ずと決定済み?

4WD車でシチャウンジャー
アパホテルが好きナンジャー
多目的トイレを使ウンジャー


……いい加減にしないと、チガウンジャー・ピンク(>違う)上白石萌音さんに怒られてしまいますね。チャーミングなタレ目もつり上がりそうです。

るい=深津絵里は大人になりました。
岡山から大阪にやってきた直後のミュージカル仕立ては、この週のそれまで(36~38回)があまりにも陰鬱だったからこその気分転換、景気づけでしょう。予告でワンカットだけ映ったのですが、これを見た時はまさかミュージカルとは思わず、なんて陽気な娘なんだと思ってしまいましたよ。

るいのミュージカル
――第7週振り返り放送・予告より これをリアルにやっていたら、なかなかブッ飛んだ女の子です。

この予告のタイミングも実によく計算されてたと思います。「安子編」と「るい編」は週をまたがず、同じ第8週のうちにシフトしました。つまりこの予告が放映されたのはその前週(第7週)、勇(いさむ)が安子にプロポーズした週の終わりです。なので、これを見ても違和感を覚えませんでした。
これが「安子編」の最後38回で週替わりして、予告でこの映像を見た日には、さすがに「そんなバカな」と思ってしまったに違いありません。

※第7週のカムカム日記


ですが、るい自身はこんなミュージカルのようにご陽気な性格ではなく、おとなしい、ありていに云えば暗めの、しとやかな女性に成長していました。グレたヤンキー娘になっても、おかしくない生い立ちでしたが、根っから攻撃的にはなれないタイプなのでしょう。そこは母親譲りです。それでいて、こういう意地っ張りなところも母親譲り。
 

〈るいは、額の傷を目立たなくする手術を受けませんでした。いくら千吉に説得されても、拒み続けました。雉真家に縛られたくない。それは、るいの意地でした〉

鏡の前のるい
――39回より


38回で、るいが安子に取った態度について、ある方から「スチュワーデス物語」の片平なぎさのようだとご指摘いただきました。ああなるほど! と思いました。
あなたのせいで、こうなった。文字通りの「負い目」を突きつけることで相手を責める。そのやり口はまさに、手袋を噛んで外して義手を晒し、風間杜夫を追い詰める片平なぎさに通じています。

むしろ、それぐらいのワルになってくれたほうが、快復は早かったかもしれません。『おしん』の初子とか、『SLAM DUNK』の三井寿みたいに、安子が登場すれば即解決しそうじゃないですか?

 

teabreak ~ 『おしん』の初子 ~
キチンと注釈しようとするとなかなか複雑なのですが、ざっくり説明しますと、東北から奉公に出されようとしていた、かつての自分のような初子をおしん=田中裕子は引き取り、実子同様に育てます。やがて初子は東北の実家に帰ることになりますが、それきり消息を絶ってしまう。しかし、行方知れずの彼女からは、毎月結構な額の仕送りがされてくるのでした。さらに時は過ぎ、居所がわかった彼女は、色街で娼婦に身を落としていました。おしん=乙羽信子は初子=田中好子と再会し、初子を連れ戻すのです。
乙羽信子パートにおける田中好子は、脇役のヒロインとして、ドラマに華を添えていました。


気になるのは大人になった彼女が、幼い日の母に対する自らの仕打ちをどのように思っているか――なのですが、それについての私見はあとに回します。

第9週、尾上菊之助(役名・桃山剣之助)の剣劇が再びカラーで上演。
しかし、るいが観るデートムービーではなかったのは、ひとヒネりしています。
 

teabreak ~ 斬られ役に「松重豊」!? ~
この往年のスター、通称モモケンに斬られるのが、なぜか松重豊なのです。振り返り放送でも取り上げられそうもない小ネタのような劇中劇の、そのまた端役に不釣り合いなビッグネームの起用。何かの伏線でしょうか?

斬られ役・松重豊
――42回より


デートのお相手は、風間杜夫ならぬ風間俊介。彼は大阪のクリーニング店で働く彼女に、背広のポケットにメッセージを書いたチケットを偲ばせておくというニクい小技を使って、るいを誘ったのです。
※全国のちびっ子諸君、こんな小技は、風間俊介クラスの美男子だからできるんだ! 真似をするんじゃないぞ! ケガをするぞ!

憎い小技
――42回より

しかし、なんということでしょう。ここでもドラマの神様のイタズラは、突然の風で、るいの前髪を払い、額の傷を露わにしてしまいます。カムアウトするのは、もっとがっちりハートを掴んでからにしたかったのに。(>憶測)
彼はわかりやすく、ドン引きしてしまいます。(>事実) 上辺を繕いますが、もはや誤魔化しようはありません。るいは居たたまれず、その場をあとにしてしまいます。
みじめな気持ちで、何気に入ったジャズ喫茶。そのステージに、「宇宙人」がいました。

 

宇宙人・画面
――同
昔はこの種の生演奏を聴かせる普通の飲食店がよくあったように記憶しています。ワタシは阪急東通り商店街のいまはなき「田園」を思い出しました。


るいのクリーニング店を二度訪れ、大量の衣類を寄越すも、いまだ名前を聞けず、るいがこっそりそう名付けた変な客の彼が。それも、トランペット奏者として。
「るい」の名の由来は、云わずと知れたシンガーでトランペット奏者、サッチモことルイ・アームストロング。縁(えにし)の輪は、時を超えて受け継がれます。

宇宙人
――同 さすがに「仮面ライダー」と名付けるわけにはいきません。まだ「昭和」ですし。

オープニングにクレジットされる役名もまだ「宇宙人」(笑)。この「宇宙人」氏=オダギリジョーが、ヒロイン・るいの一方の相手役ということになりそうです。
もう一方の相手役・片桐春彦=風間俊介も、これっきりではないはずです。予告に出てましたし、そんな役なら風間俊介が演じることはありません。『純と愛』(2012年)以来の正相手役の座を射止めるか? 気になる続きは、年明け。

 


カムカム日記も年内は、これが最後。
だからというわけではありませんが、今回はこの歌をエンディングに締め括ります。

 

――「深夜高速(25th Annivarsary Mix)(フラワーカンパニーズ)

僕が今までやってきた たくさんのひどい事
僕が今まで言ってきた たくさんのひどい言葉


るいは幼い日、母・安子にした仕打ちを、いまどう思っているのでしょうか。大好きだった。だからこそ赦せなかった。でも、残酷な言葉で傷つけたことを、いまは後悔しているのではないでしょうか。ここまでの、るい=深津絵里の人物像を視て、ワタシはそのように思いました。

なぜ、「I hate you.」だったのか? 幼い、るいはなぜわざわざ英語を使い、そう口にしたのか?
もちろん一義的には、それがこのドラマには相応しいからです。しかし、そこにしか理由がなければ、それはただのご都合主義です。
理由は二つ、考えられると思います。一つは「お母さんなんか、大嫌い!」と日本語で云うよりは、云い易かったのです。握った拳でぶん殴るより、拳銃の引き金を引くほうがたやすい。より間接的な第二言語である英語を使って、彼女はそう意思表示したのです。云い換えればそれほどに、るいの感情は冷え切っていたとも云えるでしょう。
二つ目はこちらのほうが大ですが、憎しみが激し過ぎて「お母さん」とすら呼びたくなかったのだと思います。もう「お母さん」なんて呼んでやるもんか。あんたなんて「you」だ。「you」で沢山だ!!!


雉真美都里=YOU
わたし?(>だから違う)

34回でロバートは「木漏れ日」という言葉は英語には無いと云いました。この辺は、mother=母親、teacher=教師、といった言葉はあっても、「お母さん」とか「先生」のように、人称として使われることはない、日本語と英語の性質の違いが際立っています。見事に作品のテーマを織り交ぜた名場面です。

同時にこれは、拳銃の引き金を引くことがそうであるように、より効果的に、容赦なく安子のこころを撃ち抜きます。幼い、るいが、そこまで計算してやったとは思えない。思いたくない。しかし、女は生まれたときから女(男は男の子から男になる)――と云われるように、るいは幼いながらも、安子を打ちのめす最も残酷な言葉を本能的に選びとり、発したのではないでしょうか。

とまれ、36回から始まった悪意なき悲劇の連鎖の最後で、ここだけが真っ黒な悪意に彩られています。ですが、あらためて強調しますが、そもそもは誤解なのです。だからこそ、これは悲劇です。

I hate you.
――39回より

生きててよかった 生きててよかった

そう、生きてさえいれば、とりあえずはそれでいい。遠い遠い、アメリカの空の下でも。
生きてさえいれば、取り返しのつかないことなんてないのですから。
 

teabreak ~ 追記 第二稿の大幅変更について(&モア) ~

初稿の画面を貼っておきますが、るいの心理について、解釈が正反対になっています。これは発表したあとで問題のシーンを視返して、やっぱり違うなと。るいはちゃんとわかった上で言葉の弾丸撃ってるわ、そう思い直しました。
オジサンは、るいちゃんに甘かった。悪意がそうであるように、好意もひとの眼を曇らせます。自分の気持ちに都合のいいように記憶を美化し、改竄していました。幼いながらも女らしい狡猾さ、残酷さを発揮したのだと、いまは思います。

初稿の画面キャプチャ
――初稿の画面キャプチャ

女らしい狡猾さ――と云えば、雪衣のいたしちゃった翌朝に即悪阻というのも、いくらなんでも早過ぎる。真面目に考えれば、雪衣=岡田結実・とんでもない悪女説というのも浮上するわけですが(笑)、これは笑ってツッコみ、見逃してあげるところでしょう。これはあくまでも雪衣が勇の子を身籠ったというサイン、記号であって、あのシーンの彼女の嘔吐そのものは、ノロウィルスか何かに罹患したのでしょう。
善意のこじつけが過ぎるでしょうか? いえいえ、これが愛する作品への「レスキュー」というものです。「警察」として荒探しをし、取り締まるのではなく、レスキューによって作品を救おうではありませんか。岡田斗司夫の受け売りですけどね。
それとも、シリアスに何かの伏線なのでしょうか? 確かに何があってもおかしくないんだ、このドラマは。あいつあ誰の子ならッ? そんな勇=村上虹郎の半狂乱、山崎豊子『華麗なる一族』展開も今後有り得るのかもしれません。
これを年の瀬にご覧いただけるかどうかはわかりませんが、ワタシからはこうご挨拶しておきます。皆さま、どうぞ良いお年を。

 

2021.12.31 大幅に加筆・変更
2022.01.03 一部訂正