もっとベタに「泣きたい客を泣かせる映画」にできたはずなのに、そうしなかったのは監督の美意識なのでしょう。白状すると、観た直後にはそこのところに食い足りなさを感じてしまいました。
戯作者馬琴の失明によって一時は途絶え、口述筆記の労苦の末に書き上げた作は、娯楽への取り締まりを強化する幕府の検閲により、ますます先送りに。それを読むまでは死ねない、そう口にするほど心待ちにしていた「八犬伝」の最終話がようやく世に出たとき、お吟(満島ひかり)はすでに労咳の死の床にありました。信次郎(大泉洋)の朗読によって、彼女の最期の望みはかなうのですが、臨終の瞬間がスクリーンに映し出されることはなく、軒先で読経をあげていた僧の正体も明かされないまま。お吟の元情夫(堤真一)だなんて、考えるまでもなくおわかりでしょ? と云わんばかりのアッサリとした描かれ方で。正直物足りなさを感じたのですが、あとからジワジワ来るんですよねぇ。
お吟が豪商の情夫を捨て、縁切り寺に駆け込んだのは、情夫の怖ろしい裏の顔を知ったから、という理由だったのですが実は……というところも(これは書きませんけど)泣かせる。でも、泣かせない。メロドラマにしたくなかったんでしょうねえ。
蛇足ですが、満島ひかりファンとしては、戸田恵梨香(鉄練りじょご)との共演も見逃せません。『デスノート』(06)以来ですが、あの頃はふたりともまだ女優として駆け出し(ハンパにかかってますけど、すみません処理できません)でした。あの映画では物語で絡むことはなかったのですが、いまや堂々たる大女優としてガッツリ絡んでます。
境遇も夫との関係もまるで対照的なふたりの出逢いと友情と別れの物語は、役者への個人的思い入れもあって、しみじみと心に染み入りました。間違いなくこの作品の主軸である、大泉洋と戸田恵梨香のラブストーリーについては、他のレビューか映画をご覧ください。
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