それはかつての、海の向こうから忍び寄ってきた戦争の悪夢に酷似している。最初、戦火のニュースはひっそりと新聞紙面の一隅を侵食し、ヘッドラインの活字は次第に巨大に育って行った。最初の戦死者の遺骨は数体分がしめやかに運ばれてきて、日本内地に帰還した。『英霊帰る』と報道した新聞の扱いはきわめてつつましやかなものだった。やがて戦死者は日本国民にとって徐々に身近なものとなり始めた。都道府県から市へ、町へと身近になるにつれて、戦死者の帰還は奔流として育ち、ついには同じ町内、向こう三軒両隣りへ、そして身内へと辿り着くのは瞬く間だった。
わずか数年で、あらゆる国民が肉親の戦死者を迎えるに到ったのである。


――「私信Ⅰ」(『夜にかかる虹』下巻収載)