からの続き、7回目です。
次からはなるべくペースアップできるようにがんばりますσ(^_^;)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
カメラを見つけようと決めたあの日から、もう、ずいぶんと長い時が経つ。
あの日、翔太くんと約束した通り、私は大学へ進学をした。
高校生の時はあちこちと動き回ることは出来なかったけれど、大学に入ってからは、暇を見つけてはカメラを捜し歩いていた。
私があの時代で、一番長く時を過ごした島原。
慶喜さんとの思い出ももちろん、秋斉さんや龍馬さん。
新選組の人たち……
慶喜さんの歴史は変わっていたけど、新選組の人たちの歴史は、何一つ変わってはいなかった。
大きな……お父さんみたいな近藤さんも。
無邪気で、子供のようだった沖田さんも。
鬼なんて言われていたけれど、本当は優しくて、頼りになるお兄さんのようだった、土方さんも……
みんな、別々の場所で、死んでしまったようだった。
『藍屋』も、もう今はない。
今の島原にも置屋や揚屋は少し残っているけれど、あの頃のような賑わいは、もう島原にはなかった。
毎日のように通った、置屋から揚屋までの道。
大門を出て、お遣いに行った京の町。
新選組のみんながいた、壬生の屯所。
その、どこから見る景色も、あのころとはまるで違っていた。
京都だけじゃない。
大阪の……秋斉さんが最期を迎えた場所。
今ではもう変わりすぎていて、そこがどこにあるのかさえも、わからなかった。
島原、京都の町、壬生や二条城。
鳥羽、伏見、大阪城。
慶喜さんと、最後に過ごした、寛永寺。
一緒に行った場所に何度も訪れてみたけれど、カメラのことは全くわからなかった。
* * * * *
新幹線を降りた途端、京都特有の蒸し暑さが私たちの体にまとわりつく。
「はー、何度来ても夏の京都は暑いよなぁ」
「ほんと、私たちが向こうにいた時より、確実に暑いよね」
私も翔太くんも、無事に大学を卒業し、二人とも就職をして今年で三年目になる。
この八年間、東京はもとより、京都や大阪、慶喜さんが謹慎場所とした静岡や茨城など、たくさんの場所に行った。
見覚えのある思い出の場所、地図上で探し当てた場所、なんとなく気になる場所。
各地の図書館や、歴史資料館。
翔太くんは嫌な顔一つせずに、カメラ探しに付き合ってくれているけど、私は今日、一つの決意をしていた。
もし今回の旅で何の成果も得られなかったら……
その時は、今後は自分一人で探す。
そう、翔太くんに伝えようと。
今までも何度かそう言ったことはあった。
でもその度に翔太くんは、はぐらかしたり、聞こえていないふりをしたり……
そして私は『ねぇ、聞いてるのー?』なんて言いながら、そんな翔太くんを見ないふりをした。
怖かった。
もうこれ以上、翔太くんを巻き込んじゃいけない、迷惑をかけちゃいけない……
そう思っていても、一人でトンネルの出口を探すのは怖くて。
もし、出口がなかったら?
もし、振り返っても、入口が見えなかったら?
そもそもこのトンネルは、真っ直ぐだった?
考えれば考えるほどに怖くなった。
でも、もうこれ以上、慶喜さんに繋がる出口を見つけるために、翔太くんという明かりを利用しちゃいけない。
今日一日が終わったら、必ず伝える。
心の中でもう一度そう決意して、私は歩き出した。
「今回も空振りだったなぁ」
京都に来たらお決まりになっている骨董品店巡りが終わり、翔太くんはそう呟いた。
「お店に入った瞬間に、『入ってきてへんよ。まぁ、お茶でも飲んでいきよし』だもんね」
苦笑しながら答える。
二~三か月に一度は必ず来て、毎回カメラのことを聞く私たちは、京都界隈の骨董品店では知らない人はいないようだった。
最初の頃は、何も買わないで毎回同じ質問をする私たちのことを、訝しんだり鬱陶しがったり……
でもそのうちに、探している理由を聞かれてもはっきりと答えられない私たちを、わけありと思い気の毒になったのか、単純に興味が湧いたのか、だんだんと協力してくれる人が増えてきた。
「でも、本当にありがたいよね。お客さんでもない私たちに、ずっと親切にしてくれて」
「だよなぁ。わざわざ骨董市で探してくれたり、カメラに詳しい人に聞いてくれたり」
「うん。私たちだけじゃなかなかそこまではできないもんね」
私の言葉に頷きながら翔太くんが腕時計に目をやる。
「っと、もうこんな時間か。新幹線の時間まであと一時間半だな。なんか食べる時間くらいはありそうだから、そうする?」
「うん……あのね。その時に話があるんだけど、いいかな」
「話……? 今じゃだめなのか?」
怪訝な顔で、そう聞く翔太くん。
「もうちょっと、落ち着いたところで話したいの」
「……わかった」
駅からそう離れていないレストランに入り注文を済ませる。
「それで、話って何?」
翔太くんの真っ直ぐな瞳に見つめられて、つい目を逸らしてしまう。
「あの……ね」
「うん」
逸らしていた目をもう一度向ける。
「今まで一緒に探してくれて、ありがとう」
「? どういう、意味……?」
「私、これからは一人でカメラを探してみる」
「――! なんで!? どうしてだよ!?」
「この八年間、翔太くんが一緒に探してくれて、本当に心強かったよ」
「だったらなんで! なんで急に一人で探すって……」
突然の私の宣言に驚き、納得がいかないという表情だ。
「翔太くんには、幸せになって欲しいの。散々振り回してきた私が今更こんなこと言うのもおかしいけど……でも、これ以上巻き込めない。翔太くんには、翔太くんの道を歩いて行ってほしいの」
「俺は! 自分で決めて、自分の意志で一緒にカメラを探してるんだ! 幸せになってほしくてやってるんだ。だから俺は」
「ありがとう。でもね」
翔太くんの言葉を遮って話し出す。
「もう決めたの。勝手に決めてごめん……でも、決めたの」
「…………」
新幹線に乗っても、二人の間には重い沈黙が続いた。
翔太くんが私の言葉を受け入れてくれたのか……
わからないまま、最寄駅に着いた。
「まだ時間大丈夫か?」
「うん」
二人でいつもの公園に向かう。
子供のころから通いなれた公園。
カメラを探すと決めたときも、この公園で話をした。
「俺さ、やっぱり今日で探すのやめるなんてできないよ」
「…………」
「だからさ、今まで探した場所にもう一回ずつ行く。それで最後にする」
「翔太くん……」
「な? それくらい、いいだろ?」
困ったような、諦めたような……でも、さわやかな笑顔で。
「うん……ありがとう」
「何言ってんだよ。これは俺がお願いしたの! 俺の最後のわがまま、聞いてくれる?」
おどけたようにそう言って、翔太くんは立ち上がった。
「さーて、もう遅いしそろそろ帰りますかっ!」
歩きなれた道を通り、翔太くんが私の家まで送ってくれる。
「おやすみ。今日はありがとう」
「ん。じゃあ、おやすみ」
これで、良かったんだよね。
鞄から出したかんざしを握りしめ、ベランダに出た。
(あ、流れ星……)
お願いしたいことはたくさんあるのに、いつもすぐに消えてしまう。
この空は、慶喜さんの見ている空と、繋がっているのかなぁ?
あの時慶喜さんと見た夜空は、もっと、ずっとたくさんの星であふれていた。
望遠鏡なんてなくても、一つ一つの星がはっきりと見えて。
手を伸ばせば、今にも星に手が届きそうだった。
今この夜空に見える星は少なくて、手を伸ばしても、届きそうな星なんてひとつもないんだ。
なんだか、それが私と慶喜さんの距離みたいで……
また一緒に、星を眺めたい。
その腕に、抱きしめられたい。
大好きって、伝えたい。
慶喜さん……
会いたいよ……
