第7話 OMG (Oh My God) | GG Times

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旧名:ソシペンス・ドラマ 「浪速の9人」、tk39fishのブログ

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ミンスとジョンヒョン、8人のメンバーがウォンに案内されるまま辿りついたのは、倉庫の地下に増設されたらしい殺風景な部屋だった。入口の扉は銀行の地下金庫かと見紛うような頑強なつくりになっていて、その中に収められているものの重要さを物語っていた。真っ暗だった室内に不意に照明がともる。照明と言ってもダウンライトほどの微かな照明だ。しかし、その光の下に並べられたものを見て、一同は息を呑んだ。
「・・・説明はいらんと思うが」
10人の背後に立っていたウォンが言うと、
「また、こんなもの見るハメになるとは思わなかったわ」
みんなの気持ちを代弁するかのようにヒョヨンが言った。目の前の薄明かりの下に並べられているのは、まぎれもなく日本での事件の発端となった、あの特殊スーツだった。
「あの事件のあと、軍はこのスーツを回収して、ここでその性能などの分析をしてきた。もともとは軍が開発していたものではあるが、不明な点が多かったものでね」
淡々と語りながら、立ちすくむ10人を迂回するようにウォンがスーツへと歩み寄っていく。それにつられるように、10人もゆっくりとスーツへと近づいていく。
「調べてみるといろいろな事が解ったよ。・・・こいつはただの防弾スーツと呼ぶには勿体ない代物だった。防弾性能は基本装備にすぎなかった、というところだ」
ウォンはそのまま、スーツの列の後ろに回ると、スーツの肩越しに10人に向き直った。高身長のウォンに比べると、スーツかなり小さく見える。少女時代のメンバーのサイズに合わせて、カスタマイズされているのだから無理もない。
「しかも、一見同じスペックのように見えるが、違っていた」
ウォンの言葉に、ジョンヒョンが反応し、早足でウォンの正面へと駆け寄る。
「どういうことです? 少佐」
「このスーツには、それぞれに独自の機能が搭載されているんだよ。もともと、そういうつもりで開発したのか、それとも試作段階でいろいろ試した結果なのか、それは当事者が行方不明の今となっては知る由もないがな」
今度はユリが、駆け寄る。
「それがテウオッパってこと?」
「いやいや」
ユリの質問に苦笑いを浮かべるウォン。
「アイツにはそんな知識も技術もない。これを開発したのはテウの友人だ」
背後で「そんなこと普通に考えりゃわかるでしょ」と誰かが小声で言っているのが聴こえ、さすがのユリもバツの悪そうな顔になる。ウォンから目をそらしてうつむきながら、あの声は絶対にサニーだとユリは確信していた。
「・・・ほう。これがキミのスーツか」
ウォンのその言葉と同時に、背後のメンバーたちからも小さくどよめきが起こった。ユリが目を上げると、ブーンという微かな音とともに目の前のスーツに走るラインが赤く発光していた。
「・・・これは?」
思わずユリがつぶやく。ウォンもまた、驚きを隠せない表情だ。
「分析班の予測通りだな。・・・すまないが、みんなもそばに来てくれたまえ」
言われて一瞬躊躇していたメンバーたちが、ミンスにも促されてスーツに近づいていく。すると、それぞれ微妙にタイミングを変えながら、全てのスーツが起動し、光を放ちはじめた。ミンスが茫然としながら訊く。
「少佐、これは?」
「私も専門家じゃないので詳しくは説明できんが、生体シグナルを感知して起動する仕組みらしい」
「生体シグナル?」
ソヒョンが興味を示したのか、声に出す。
「心拍数、体温、呼気成分、発汗量・・・そういった1人ひとり固有のシグナルを記憶して特定の法則で暗号化し、それを感知することで起動させる仕組みらしい」
「つまり、特定の人間じゃないと起動できないってことですか?」
物わかりのいいソヒョンが言うと、ウォンがうなずく。
「そうだ。おかげで材質や機能の分析はできたものの、起動しての分析はこれまで実施できなかった」
「っていうか、いつの間にそんな、その、生体なんとかを記憶しちゃったわけ?」
ジェシカが気味悪そうに聞く。
「おそらく、最初に起動した時だろう。その時に着用していた人間のシグナルを認識するようにできているらしい」
「なんかスゴい話だけど、気持ち悪いよね」
ティファニーも、自分の目の前でピンクに明滅するラインを見ながらつぶやく。
「これって、あたしらが離れたらどうなるんだろ?」
不意に思いついたのか、サニーが言う。
「試してみるか? みんな、さっきの位置まで戻ってみてくれ」
ウォンに言われて8人がそのままの向きでスーツから遠ざかると、多少のタイムラグはあるものの、ヒューンという微かな音にあわせて、スーツの発光ラインが光を失っていく。
「・・・目測で5mというところか」
ウォンが言う。と、再びヒョヨンのスーツだけが再び薄いグリーンの光を放ち出した。しかし、すぐに光を失う。そうかと思うと再び・・・
「ほー、このあたりがちょうど境界線みたいだわ」
言いながらヒョイヒョイと前に出たり後ろに下がったりを繰り返すヒョヨン。それに合わせてスーツの起動スイッチがせわしなくオンオフされているのだった。
「アンタ、スーツ壊れるよ!」
スヨンに諌められて、「しいません」とばかりにペロっと舌を出して大人しくなるヒョヨン。

「私たちがここに連れてこられたのは、このスーツの分析のためってわけですか?」
ユナが怒ったような顔で言う。
「それもある。・・・だが、それが最大の目的ではない」
ウォンが言いながら、ポケットからなにかを引っ張り出した。弱い照明の下では細部までは認識できないが、3cm四方ほどの薄片のようだ。
「ユリ、これは、今夜、きみが拾った携帯電話の中に差し込まれていたメモリーカードだ」
その言葉にユリがはっとなる。
「それが理由?」
ユリに言われて
「・・・まあ、端的にはそういうことだな」
ウォンはそう答えると、話の先を続けた。
「このカードは、スーツを開発した男のものだ。これを差し込んであった携帯電話もな。そして、テウは、おそらく彼に呼び出されて巻き込まれたものだと我々は考えている」
「巻き込まれた?・・・どういうことですか?」
ユリの質問に答えるというよりも、事実を淡々と述べるふうにウォンが続ける。
「このカードには、このスーツに関する開発データと、それ以上に重要な軍装備の開発データが保管されていた。テウを連れ去ったのは、そのデータの存在を知り、なおかつそれを手に入れんとする者の仕業だと考えられる」
「なんでそんなものが・・・」
ミンスが苦々しげにつぶやく。
「あの日本での一件の後、内部調査によってスーツの闇転売を謀ったのは、軍内部のある人間だということが判明したんだが、僅差で本人は行方をくらました。我々はそいつの行方を探り続けていたが、今夜、江南の一角からそいつの携帯電話の発信をキャッチした」
「・・・それがあの電話?」
ユリが自分にかかってきた正体不明の電話のことを思い出す。
「そうだ。推測だが、これまで逃亡者は逃亡以後、その携帯で発信した形跡はない。我々の監視網に捕まるリスクを避けていたのだと思われる。それが今夜に限って無防備にも発信された。これは、発信者が逃亡者本人でないか、あるいは携帯電話が事情をよく知らない別の人間の手に渡ったことを示す」
「・・・それがテウオッパだっていうの?」
「少なくとも私はそう推測している。あの携帯電話からの発信先も調べさせてもらった。だから相手がユリ、君だということも知った上で我々は現場に急行したんだ。第二の犠牲者を出さないためにも」

ユリが愕然とする一方、ウォンの何気ない話に、背後のメンバーがざわつく。
「・・・軍ってそんなことも解っちゃうの?」
小声でサニーにつぶやいたのはメンバー随一の電話依存症患者ジェシカである。
「あんたもヘタなことできないわね」
サニーに言われて青ざめるジェシカの肩を、優しくポンポンと叩く者がいた。
「大丈夫。アンタの電話は相手が闇雲すぎて、軍の人もさじ投げるってば」
ニンマリ笑いながらスヨンに言われて、思わず手が出るジェシカ。その手を器用に交わしてスヨンがおどけてみせた。
「それで、テウオッパをさらったのは誰? どこにいるの?」
すっかり話に呑まれてしまっているユリは、背後のおちゃらけも気にならないのか、さらにウォンに食い下がる。ウォンはそれでも軍人らしく冷静にあしらった。
「わからん」
その言葉を受け継ぐかのように、黙って聴いていたジョンヒョンが口を開く。
「アクバルのキファーフ・・・でしょ?少佐」
その一言に、ピクリとウォンの右眉が動いた。ジョンヒョンの職業を思えば、そうした情報も持っていると予想もできたが、ジョンヒョンがこの場でそれを口にするとは思っていなかったのだ。
「・・・さすがだな、新聞屋」
「まあ、これで今はメシを喰ってますから」
キファーフの名前を知っているのは、彼らの他にミンスだけだ。彼はキファーフの話は既にジョンヒョンから聞いていた。
「キファーフって何?」
事情が分からないユナが聞く。人物名だということも理解できていないふうだ。
「おまえらをダシにしてあのスーツを手に入れようとしてたゲス野郎だよ」
ジョンヒョンが言うと、サニーが怒声をあげる。
「あいつ、捕まえたじゃん!」
「残念ながら、さっさと釈放されちまったみたいだぜ」
「な、な、な、なんで!? あんな酷い犯罪者!」
興奮してジタバタするのを、スヨンに背後から羽交い絞めされながらもサニーが言う。
「まあ、オトナの世界なんてそんなもんだ」
ジョンヒョンの一言で「むぅー」とむくれて黙り込むサニー。
「・・・そのキファーフがまたスーツを狙ってるってわけですか?」
再びユリがウォンを問い詰めた。
その問いが、今回の事件の核心を突くものだけにウォンは少し考えてから答えた。
「いや。奴らが狙っているのはスーツではない」
「?」
流れ的にはそうであって間違いない状況を否定したウォンに、ジョンヒョンとミンス以外のメンバーたちの頭上に疑問符が浮かぶ。
「じゃ、なにを??」
スヨンが問った。
ウォンは全員の顔をひとつひとつ眺めるように首をめぐらして言った。
「あのスーツに対抗しうる武器だ」
その言葉の意味を理解するために、少しの時間が必要だった。どんな弾丸でも防ぐと聞かされていたスーツなのだ。それに対抗しうる武器とはどういうことなのか。
「開発部のスタッフが、あのスーツと並行して開発していた特殊な弾丸とその射出システムが存在するらしいことが解っている。つまり・・・既にこのスーツは無敵ではないということだ」
ウォンが静かに言う。
「だが、唯一、我々にとっての救いはその武器がまだ試作品の域を出ていないという可能性だ」
ウォンが言う“我々”とは、すなわち韓国軍を指すのだろう。まるで自分たちもそのくくりに入れられているような感覚になって、ティファニーは不快に感じた。
「・・・その武器って・・・」
ユリのその問いを予測していたかのようにウォンが続ける。
「開発を担当していた男と協力者たちは、あの事件の直後に既に国外に脱出していることが解っている」
「国外って・・・?」
とソヒョン。
「日本だ」
その言葉に反応して、メンバーたちは一斉に「エーーーーッ!」と奇声をあげた。これにはさすがのウォンも苦笑を隠せない。だが、すぐに真面目な表情を取り戻してみせるあたりは、さすが生粋の軍人である。
「なんでまた日本なの!? しかも、あの事件のすぐ後なんでしょ?」
「かえって安全だと考えたんじゃないか?」
ウォンの代わりにジョンヒョンが口を開く。
「あの事件は韓国軍からの情報提供で日本政府にも知らされている。唯一の窓口だった中東商会も根絶やしにされて、アクバルの連中は日本への介入が容易じゃなくなった。少なくとも韓国にいるよりは安全だと考えたんだろう。まあ、どんな手を使ってブツを持ち込んだのかは解らんが」
ジョンヒョンの言葉にウォンは肯定も否定もしない。なにしろ、自分の軍隊からの脱走者がまんまと機密を持ち込んで日本へ逃げ込んだのだ。軍としては認めたくないことには違いない。
「つまりテウオッパは?」
ユリがそもそもの疑問を再び投げかけた。
「おそらく、この情報を持っていた開発者と一緒に拉致された可能性が高い。開発者自身から何かを聞いているのじゃないかと考えるほうが自然だからな」
「でも、こんな話、テウオッパが知るはずないですよね?」
ユリが言う。
「・・・知っていたとしても、その時に開発者が漏らした表面的なことしか知り得ないだろうな。ましてや日本に逃げ込んだ連中の話などは」
「じゃ、すぐに解放される?」
一縷の望みを託すようにしてユリが聞く。しかしウォンは厳しい表情で首を横に振った。
「テウの性格は軍にいた頃から知っている。あいつは、知らない話でも“言わない”と答えるような捻くれ者だ。その上、見掛け以上にタフな奴だからな・・・」
「そんな・・・」
「唯一の望みは、アイツがこの国ではちょっとした有名人だということぐらいだ。後のことを考えて、命を奪うようなことまではしないと思いたいがね・・・」
ウォンのその言葉は、かえってユリの動揺を誘った。その場にしゃがみこんで泣きだしてしまうユリ。慌ててメンバーたちが駆け寄り、その体を支える。
「大丈夫だって」
サニーが言葉少なに声をかける。
「テウさんを助けてください!」
毅然としてそう言ったのはスヨンである。ユリと仲間たちの傍らですっくと仁王立ちする姿は様になる。
「もちろん、そのつもりだ・・・」
ウォンはそう言い、そして続けた。
「・・・そのために、キミたちにも手伝って欲しいことがある」
誰もが、ここへ連れてこられた時から薄々とは感じていたことがあった。自分たちは何故、ここに集められたのか。ミンスの姿を目にし、そしてジョンヒョンの姿を目にしたあたりで、微かな不安は確実に形を取りはじめ、あのスーツを目にした瞬間に、不安は確信へと変わっていたのだ。
「なにを私たちにしろと?」
そんな不安を微塵も見せずに、スヨンが言う。
「今までの話から察しはついてると思うが・・・」
言葉を濁しながらウォンが言う。おそらくはウォンもまた、不本意なのだろう。1度のみならず、2度までも軍の失態を民間人の力を借りて処理せねばならないことに。しかし、そうするしか手立てはなかった。彼らが追い求めるものは、通常の装備では太刀打ちできない。唯一対抗しうる手段かもしれないスーツを身に付けられるのは、目の前の少女たちしかいないのだから。
苦々しげに、しかし期待も含ませた響きでウォンが言う。
「・・・日本へ行って欲しい」