商店街を歩き程なくすると、さびれたラブホテルが現れる。
25時。商店街にごった返す人々による活気はとうに消え失せ、その通りは、目映く、鈍く光るネオン街へと姿を変える。
冷たい電柱に寄り添いながら俺はラブホテルを凝視していた。
満室だったからではなく。
仕事だった。
調査対象は40代男性。一般企業に勤める会社員。
日々の鬱憤から足かせをはずし、大人の社交場を飛んで歩く。
この男に妻子ある以外には別に異常な点はない。
妻からの依頼を受けたときにはただの浮気調査かと思い
易々と依頼を受けた。
昨今の不倫ブームによりこんな依頼が増えた。
そしてなにより、
浮気調査は値がはずむ。
人は愛するひとの真実を知れるのであれば
持っているものを投げ出す覚悟があるのだ。
だが、少しだけ普段の浮気調査とは違う点がここ1週間の調査でわかった。
この男の浮気物語純情派の登場人物には
男しか登場しない。
つまり
男性との浮気。
妻子ある旦那が同性愛者。
昨今はあまり珍しくはないだろうが、肉眼でその姿をとらえたのは初めてだ。
調査対象と浮気相手がホテルに入り10分。出てくるまで一息つこうとホテルから視線を外した途端。
「失礼しちゃう!!なんなの!もう!」
文面とは程遠い野太い声がこだました。
浮気相手はさらにこう続けた。
「あたしのせいだわ!、あたしが男だから、、」
「そうじゃない。俺も男じゃないか。悪いのは俺たちではなく、このホテルだ。」
喧しく滑稽な二人の男の会話を簡単に解説するとこうだ。
どうやらホテル側から男同士の入室を断られたらしい。
当然だ。
と即座に俺は思ったが、
拒否する理由が思い付かなかった。
男同士の入室を断る最適な理由が思い付かなかったのだ
「こんな偏見いつものことじゃないか。」
「でも、いいかげんあたし苦しい。。」
「俺も今まで苦しかった。でも、苦しみの中でお前を見つけた。お前と一緒なら、苦しみなんて、、そうだろ?」
「、、、うん。」
この会話が
倦怠期を迎えたピチピチの大学生カップルではなく
更年期を迎えたカサカサおやじカップルの会話であると再度ご理解願いたい。
そして片方には妻子がいる。
眼前で行われる奇妙なラブシーンは
一瞬、自分が探偵だということを忘れさせた。
俺は1人の観客として、この舞台を刮目していた。
舞台の幕が降りるそのときまで。
「あなたはなんでそんなに強いの?
あたしは耐えられない。」
「お前が強くしたんだ。俺を。偏見の瞳なんか目に入らない程、お前の純粋な瞳が、俺を強くしたから。
その瞳が見れるだけで俺は十分だから。」
「、、、。あたしも、あなただけで十分」
遠足が、家に帰るまでが遠足であるならば
探偵は、依頼人に調査の結果を伝えるまでが探偵だ。
「あなたの旦那さんは浮気をしています。そして浮気相手は男です。二夜連続、男です。」
果たして信じるか?
いやそのまえに
俺がこんなこと言えるのか?
そんな戸惑いをもった時点で、俺のなかにも同性愛者への偏見があるのだ。
偏見は無くならない。
この世に人間がはびこるうちは。
右向け右のこの群衆の前では、
そして
偏見は常識というバケモノへと姿を変える。
群れを外れた人間たちは、このバケモノに食い尽くされ、社会から抹消される。
男は女に恋をして、女は男に恋をする
ではない。
人は人に恋をする。
常識を変えていこう。
誰に頼まれたでもなく常識を作ったのは人間。
誰に頼まれたでもなく常識を壊すのも人間だ。
依頼人への報告は明日だ。
行くか、バケモノ退治へ。
寄り添いながら暗闇に消える二人の男を見ると
俺も人肌が恋しくなってきた。
だけど、
こういう心が火照った日は
隣の冷たい電柱で十分だ。
汚れきった東京の空に突き刺さるように立ちすくむ、無口な恋人に身をゆだね、
最後のタバコに火をつけた。
タバコの火はパチパチと燃え、
幕が降りる舞台へ拍手をしているようだった。