賑わう海岸線を西へ西へ行った街はずれ
切り立つ絶壁に所狭しと建ち並ぶホワイトウォールの家々
そこでは無邪気な波しぶきと透明な風が子供たちを陽気に唄わせ、待ちわびても疲れを知らない健康な音符がステンドグラスに映る頃、一日の終わりをぎっしり詰めたバスが停留所に着けば、一つ一つそれぞれの家に日暮れの幸福がやって来る
ホワイトウォールの階段は西へ進むほど段差が広くなり、やがて補正されてない険しい坂道しか残らない
その坂道を斜め斜めに下りきったそこにある、めったに通る気配の無い錆びた停留所の看板がポツンと立ち尽くす、小さな船着き場
誰を乗せ誰が降り、そして誰を待っているのか
緩い波にキュウキュウと独り言を繰り返し、色の無い日暮れと戯れる船たち
しかしそれはともすれば、そこでは考える必要のない時間の焦燥と、感じる必要のない喧騒の嫌悪から解き放たれた安堵の唄声にも、聞こえる
その小さな船着き場から丘に向かって延びていく坂道の入り口にある、All Night Open Caffe“messin'with”
今夜もどこからともなく、旅人がこの店を訪れる
―なあ兄ちゃん、あ、マスターって呼んだ方がいいかい?
―・・・別にどちらでも
―あんたぁ先代の息子かい?それとも孫か?孫ってこたぁねえか。そこまで若くはなさそうだ
真夏だというのに薄手ではあるが長袖のコートを羽織ったその男は、窓から丘に続く坂道を覗きながら、背中で俺に話してかけてきた
―この道の先にゃあ、何があるか、知ってるかい
―・・・その先には未だに行ったことがないから、、わからないな
―そうか。お前さんにはぁ、行く必要がないのかもしれんなぁ。うん、うん
一人で納得したようなその背中は、どことなく淋しげに丸かった
―どういう、意味だい
―先代もそうだった。お前さん、ここで好きな音楽を好きなように好きなだけ流しとるんだろ。だったらこの道の向こうへわざわざ行く必要はない。俺ぁ何度もこの道を行ったが、それでも何があったのかぁわからん。わからんから、また行くんだろうなぁ。お前さんに行く必要がないのは、幸せだからだよ
―・・・幸せかどうかは、わからないよ
―きっとそういうこった。そうでなければ、お前さんも行ってたと思うよ。まあこの先、行く時が来るかもしれんがな。その時は、大いに彷徨って、またここに戻ってくるかもしれんがな。俺ぁ今んとこその繰り返しだ
丸い背中がピンと一直線に伸びた
―なあ兄ちゃん。旅の出発に、何か景気のいいもんかけてくれよ。踊れるような、さ
振り返りながらそう言ったその男の目は、悲しすぎるほど優しかった
俺は、男のリクエスト通り一曲かけた
曲が終わりきる前にその男は店を後にした
足音が、坂道で踊っていた
その先に何があるのか
男にも日暮れの幸福が訪れるのか
何もわからないまま
俺は、曲を流し続けた

tonight song:
MITCH RYDER & THE DETROIT WHEELS『Devil With A Blue Dress On/Good Golly Miss Molly』
切り立つ絶壁に所狭しと建ち並ぶホワイトウォールの家々
そこでは無邪気な波しぶきと透明な風が子供たちを陽気に唄わせ、待ちわびても疲れを知らない健康な音符がステンドグラスに映る頃、一日の終わりをぎっしり詰めたバスが停留所に着けば、一つ一つそれぞれの家に日暮れの幸福がやって来る
ホワイトウォールの階段は西へ進むほど段差が広くなり、やがて補正されてない険しい坂道しか残らない
その坂道を斜め斜めに下りきったそこにある、めったに通る気配の無い錆びた停留所の看板がポツンと立ち尽くす、小さな船着き場
誰を乗せ誰が降り、そして誰を待っているのか
緩い波にキュウキュウと独り言を繰り返し、色の無い日暮れと戯れる船たち
しかしそれはともすれば、そこでは考える必要のない時間の焦燥と、感じる必要のない喧騒の嫌悪から解き放たれた安堵の唄声にも、聞こえる
その小さな船着き場から丘に向かって延びていく坂道の入り口にある、All Night Open Caffe“messin'with”
今夜もどこからともなく、旅人がこの店を訪れる
―なあ兄ちゃん、あ、マスターって呼んだ方がいいかい?
―・・・別にどちらでも
―あんたぁ先代の息子かい?それとも孫か?孫ってこたぁねえか。そこまで若くはなさそうだ
真夏だというのに薄手ではあるが長袖のコートを羽織ったその男は、窓から丘に続く坂道を覗きながら、背中で俺に話してかけてきた
―この道の先にゃあ、何があるか、知ってるかい
―・・・その先には未だに行ったことがないから、、わからないな
―そうか。お前さんにはぁ、行く必要がないのかもしれんなぁ。うん、うん
一人で納得したようなその背中は、どことなく淋しげに丸かった
―どういう、意味だい
―先代もそうだった。お前さん、ここで好きな音楽を好きなように好きなだけ流しとるんだろ。だったらこの道の向こうへわざわざ行く必要はない。俺ぁ何度もこの道を行ったが、それでも何があったのかぁわからん。わからんから、また行くんだろうなぁ。お前さんに行く必要がないのは、幸せだからだよ
―・・・幸せかどうかは、わからないよ
―きっとそういうこった。そうでなければ、お前さんも行ってたと思うよ。まあこの先、行く時が来るかもしれんがな。その時は、大いに彷徨って、またここに戻ってくるかもしれんがな。俺ぁ今んとこその繰り返しだ
丸い背中がピンと一直線に伸びた
―なあ兄ちゃん。旅の出発に、何か景気のいいもんかけてくれよ。踊れるような、さ
振り返りながらそう言ったその男の目は、悲しすぎるほど優しかった
俺は、男のリクエスト通り一曲かけた
曲が終わりきる前にその男は店を後にした
足音が、坂道で踊っていた
その先に何があるのか
男にも日暮れの幸福が訪れるのか
何もわからないまま
俺は、曲を流し続けた

tonight song:
MITCH RYDER & THE DETROIT WHEELS『Devil With A Blue Dress On/Good Golly Miss Molly』
