幼い周のひとり娘と、彼の父親としての顔を目の当たりにして

それまで幻想の世界だった周の家庭が現実となり、21歳のちひろの胸に突き刺さった

信頼する父親の腕に抱かれ、無邪気に笑っていた少女

あの輝くような笑顔に暗い陰を落としかねない自分の存在

ちひろが言葉に出来ない恐怖と後悔に震えていると

「ほらっ、俺の目を見て」

大きな手のひらが優しく彼女の頬を包み込む

「わかった、ちひろが辛いならもうやめよう。けど…」

周は深く息を吸ってから微笑んだ

「ちひろは優しくて素直な、とっても良い子だ」

ちひろはぎゅっと目を閉じ、否定するように首を振る

「今日は嘘はつかないって約束しただろ?ほんとうに悪いのは俺だから、ちひろが気に病むことはないんだよ」

「そんなわけ…」

「あるよ。真面目で曲がったことが嫌いな君を、間違った場所に引きずりこんで…たくさん辛い思いをさせてしまった」

まるで子どもに言い聞かせるように、周はちひろの目を見て話しかける

「お願いだから、無理して頑張り過ぎるのはやめて…身体を大切にするんだよ」

周は最後に

涙の止まらない彼女を抱きしめ、耳元で優しくささやいた

「ずっと、ずっと大好きだから。ちひろのこと絶対に忘れない…幸せな時間をありがとう」

両手で顔を覆ったまま動こうとしないちひろから、周がそっと離れていく

聞き慣れた車のエンジン音がして、まもなく静寂が訪れた

誰もいない炎天下の駐車場には

ちひろの嗚咽する声が、いつまでもいつまでも聞こえていた



つづく↓