夕立が通り過ぎた街は、昼間の蒸し暑さが嘘のように涼しかった


「いらっしゃいませ」


木製の扉を開けた瞬間、甘いカクテルの香りが雨の匂いと混ざりあう


客が少ない静かな店内に、ジャズピアノの音色がゆったりと彷徨っている


カウンター席に座った瞬間


「あのっ、ご注文は?」


夜の酒場には不似合いな、可愛いらしい声が聞こえてきた


驚いて顔をあげると、ひとりの少女と目が合った


いや、ここはカクテルバー


さすがに未成年ではないだろうが


小柄なその女性店員は、どこか幼さを感じさせた


「おすすめは、なに?」


酒が苦手で、カクテルに詳しくない俺が尋ねると


「ジ、ジントニックはいかがですか」


彼女の声が緊張に震えて裏返る


おそらく、まだこの仕事に慣れていないのだろう


「お待たせしました」


出来上がったドリンクを差し出す手もひどくぎこちない


「ふっ…」


思わず吹き出しかけたのを、下を向いて必死に堪える


その時


「!」


自分が自然に笑えていることに気がついた


それだけじゃない


凍りついた胸の深部が、魔法のように溶けていくのをはっきり感じた


さりげなく女に視線をやると


瑞々しい頬を紅く染め、俺の左手の薬指をじっと見ている


数年ぶりに口にしたアルコールが一気にまわり、身体に甘い疼きをもたらす


この子を今夜、抱いてみたい


湧き上がった欲望は、酒に酔った頭では抑えきれない


「仕事は…何時に終わるの?」


理性を失った俺が声をかけると


「23時です」


彼女は照れたような表情で、小さく笑って頷いた




つづく



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