ユリはいつでも笑っていた

朝も昼も夜も

太陽のように明るい笑顔で俺のそばにいて、辛いことを忘れさせてくれるのには感謝していたが

さすがに、初めてのセックスの時くらい笑うのはやめて欲しかった

「やっ!」

「少しの間だけ我慢しろって」

「出来ない、ダメ、くすぐったいんだもん」

透けるほど白い体のどこに触れても笑い転げるユリを目の当たりにして

17歳の俺はAVや官能小説で得た知識など、なんの役にも立たないことを思い知る

なんとか彼女とひとつになることが出来たのは、3度目に体を重ねた卒業間近の冬

「今日は最後まで笑うの我慢するね」

彼女から重ねられた唇と、いつもより色を帯びた声が引き金となり

限界まで熱くなった欲望を、ゆっくり潤んだ場所に沈めると

「あっ…ん」

ずっと聞きたかった、彼女の甘い声に溺れていった

その後も

キスやハグといったスキンシップは喜ぶのに、セックスはあまり好きそうではないユリを誘うのには苦労したが

可愛い恋人と触れ合えるだけで、10代の俺は心の底から幸せだったし満足していた


そんなユリがほぼ3日間泣き続けるという、地獄のような事態が発生したのは大学2年の冬のこと


当時バイトをしながらひとり暮らしをしていた俺は、ちひろと同じように年中多忙で実家に戻る余裕がなかった

20歳になった年の12月

進学塾で講師をしていた母さんが職場で倒れたと連絡が来て、駆けつけた時には既に息を引き取った後だった

父を早くに亡くし兄弟もいない俺は悲しむ暇も無く、いろいろな手続きや葬儀の準備に忙殺されることになり

代わりに

母さんに実の娘のように可愛がられていたユリは、俺の手伝いをしながら朝から晩まで泣き続けていた

「いいかげんに泣きやめよ、母さんもあの世で呆れてる」

「どうして周は泣かないの?あなたのお母さんが亡くなったんだよ」

火葬が終わって家に戻っても、相変わらずしゃくり上げているユリの両目は真っ赤に腫れて、見ているだけでも痛々しい

「おまえの前でなんか泣けるかよ」

「…かっこつけないでよ、こんな時に」

「いいだろ、べつに」

ユリが泣いている理由のひとつは、俺が天涯孤独になってしまったからだろう

たったひとりの家族だった母親を亡くした俺の寂しさを、ユリは敏感に感じ取っていたに違いない

「わたしはずっと、周のそばにいるからね」

漆黒のワンピースを纏ったユリが、そっと俺の胸元に抱きついてきた

「ずっとって、いつまでだよ?」

からかうような口調で聞くと、ユリは泣くのをやめてはっきりと言った

「わたしが死ぬまで」

ここで、俺たちに結婚しないという選択肢は無くなった

もちろん、ユリを初めて抱いた時以上に嬉しかった



つづく↓