男はジントニックに口をつけ「何時に終わるの?」と、ちひろに聞いた

「23時…ですけど」

戸惑いながら小さな声で答えると、彼は静かに瞳を伏せる

男は30分ほどして店を出て行ってしまったが、勤務を終えたちひろが店の通用口から外に出ると薄暗い路地の片隅に人影があり

「お疲れさま」

暗闇の中に差し出された大きな手を、ちひろはためらうことなく握りしめた

乗り込んだタクシーは駅前のシティホテルに到着し、男は慣れた様子でフロントへ行きカードキーを受け取ると

「おいで」と言って、優しくちひろの肩を抱いた

エレベーターに乗り込むと、ドアが閉まるなり貪るような激しいキスが降ってきた

ちひろは男にしがみつき、細い指先が濃紺のスーツにシワを作る

部屋に入ると更に口づけは深さを増していき妖しい水音に耳を犯され、ちひろは今にも膝から崩れ落ちそうだった

「シャワー、浴びようか」

呼吸をするため一瞬唇が離れたタイミングで、男が掠れた声でささやいた

「…はい」

ちひろは彼の左手に光る指輪の存在に気づいていた

それでも、どうしても止められない

半年前に別れた同じ年の恋人としか経験がなく、セックスはあまり好きではなかったのに

会ったばかりの男に触れられただけで身体の芯が疼くような感覚を覚え、体温が一気に上昇して頭の中が真っ白になる

忙しなく衣服を剥ぎ取られ、促されるままバスルームに行き濡れた身体に濃密な愛撫を施されたあと

ベッドの上で幾度も体位を変えながら奥深くまで貫かれ、ちひろは声を上げ痺れるような快感の渦に飲まれていった

「大丈夫?」

どれくらい時間が経ったのだろう

水の入った冷たいグラスが頬に触れ、目を開けると男が心配そうな顔で見つめていた

「俺は朝までここにいるけど、君も泊まっていかないか」

ちひろは自分が置かれている状況に気づき、慌てふためく

「い、いえ!午前の講義があるので帰ります」

いつのまにか椅子の上にかけられていた衣服を手に取り、手早く身支度を整えて部屋を出ようとした瞬間

「待って、コレ…」

バスローブ姿の男が差し出した数枚の紙幣に、ちひろは血の気が引いていくのを感じた



つづく↓