翌朝

「ちょっと待ってハル、忘れもの!」
 
玄関先で小学1年生の息子に体操服を手渡していると

「少し早いけど、ジムに行く前にサラを幼稚園に連れて行く。今夜は遅くなるから先に休んでてくれ、晩飯もいらない」

まだ眠そうな娘を抱いて子ども部屋から出て来た海琉も、車のキーを指先にひっかけながら慌ただしくて行ってしまった

「いってらっしゃい、気をつけてね」

去年までプロボクサーとして活躍していた海琉は試合中の怪我が元で現役を引退して、今はスポーツジムのトレーナーとして働いているのだけれど

フェザー級の世界チャンピオンにまで上り詰め、1度は防衛にも成功したとはいえ、まだ20代なんだもん

ほんとはもっと現役を続けたかったに違いないよね

「って、なにやってんだろう…わたし」

口下手で感情をあまり表に出さない海琉の気持ちを想像して勝手に落ち込んでしまうなんて

「さっさと家事をしなきゃ」

気持ちを切り替えてキッチン戻ると、朝食のお皿がすべて綺麗に片付けらているのに気がついて言葉を失った

「いつの間に…」

こんな風に

子育てや家事を十分過ぎるほどやってくれる海琉に甘えていながら、幸せ過ぎて不安になってしまうなんて贅沢な悩み、だよね