03-00 命名をコントロールする――命名する権威

さて、大西洋北西岸のハリケーンの命名法の「名付け親」のさらに大元である、IMOの後任組織WMO=World Meteorological Organization 世界気象機関という「権威」を形作るものは何か、数回にわたり、考えてみたい。

まず、米国のHPから。

海、そして空にまで拡張した、20世紀の超大国、米国。その、海と空の「権威」組織であるNOAA = National Oceanic and Atmospheric Administration海洋大気庁の傘下のNHC = National Hurricane Center 国立ハリケーン・センターが自らのホームパージでわざわざ断り書きをしている。

「The NHC does not control the naming of tropical storms. NHCは熱帯嵐の命名コントロールしていないInstead a strict procedure has been established by an international committee of the World Meteorological Organizationそのかわり、厳しい手順世界気象機関の国際委員会によって構築されている」

あれだけ、ハリケーンが上陸しているのに、超大国、米国ですら一国では命名できないことをあえて解説している。

03-01-00 固有名詞の前に普通名詞――トロピカル・ストーム、熱帯嵐という「命名」

上記では、「tropical storms」 を「熱帯嵐」と直訳的に記述したが、日本では「熱帯低気圧」という名称でいわれているものだが、何故こうしたズレが起きるのだろうか。

ここで、本稿の全体にも関わり、その具体例として理解を補足することになると思うので、この二語熟語のネーミングを巡って考えてみたい。

03-01-01-00 「トロピカル」とは「回帰線の」

一番目の単語、「tropical 」は「 tropic 回帰線」「 al の」、の意味で、北回帰線と南回帰線の間の地帯を表す。

元々は天動説を前提として、天球を巡る太陽の軌道、黄道が、少しずつずれていき、半年ごとに踵を返して、回帰するところという意味だ。

03-01-01-01 回帰線の「黄道十二宮」

英語、西洋では、北回帰線は「the tropic of Cancer」、南回帰線は「the tropic of Capricorn」と、宇宙の中心である地球からみた、天球上の位置を表す黄道十二宮名で表現されている。「巨蟹宮♋の回帰線」と「磨羯宮♑の回帰線」だ。星座名を用いると「蟹座の回帰線」と「山羊座の回帰線」となる。

03-01-01-02 回帰線の「星座」

さて、「夏至線」、「冬至線」ともよばれるが、もう一つこの「命名」には「綾」がある。今、夏至や冬至にみると太陽の位置はこれらの星座の位置にはなく、「Aries 牡羊座」「Sagittarius射手座」にある。

理由は、「the tropic of Cancer」や「the tropic of Capricorn」という命名が西洋の紀元前に遡るからだ。

03-01-01-03 何故、回帰するのか?

そもそも、地球の四季、従って、回帰をもたらしているのは、1年かけて太陽を巡る地球の「公転面」に対する、1日かけて地球が回転する自転軸、南北を貫く「地軸」が、凡そ66.6度、傾いているからだ。直角の3/4の角度であって、凡そ、地球という球体表面の1/2の真上に太陽が昇り、1/2には太陽は真上に来ることがない。北緯と南緯の間の23.4度×2の47度の間だ。日本だと、最南端北緯20度25分31秒の沖ノ鳥島に限られる。

そうした、地軸、すなわち、地球の自転軸が一定角度でなく様々な原因により数千年の間ですら変化し、文字通り立場を逆にみて、地球からみると、天球での星座の位置が、長い年月の間に変化しているからだ。

03-01-01-04 何故、回帰がズレたのか?回帰の主因・副因

その要因は様々で、無視できる位小さいものから、「短い」人類史の間に変化の大きいものが多数重なっているが、大小を無視して列挙してみよう。

地球の公転面第三惑星、地球よりは遥かに質量の大きい太陽によって主に決められているが、実際は真円盤ではなく、次に、太陽の直径の1/10、質量が1/1000でしかない大惑星の木星の重力によって、歪められ、ほぼ楕円盤だ。

この木星の公転面地球の公転面とは僅かではあるもののずれているし、他の惑星も、土星を筆頭に質量をもち、様々な公転面を持っている。準惑星の冥王星にいたっては17度傾いている

しかも、こうした公転運動も、一様に廻っているのではなく、瞬間をとれば、太陽を含めて、限りなく広大な宇宙の中の、埃のような大きさの球体が疎らにある状態でしかない以上、稀に「惑星直列」などが起こり、妖しく喧伝されるくらい、「引力」関係も時々刻々と変化しているため、微妙な揺らぎがある。それに加え、いうまでもないが、それぞれの公転速度も実に様々だ。

公転半径も実は年月とともに、変化している。さらにいえば、太陽系全体自体も、銀河系をほぼ楕円的に周遊している。その銀河系もまた銀河団の一員として動いている。

03-01-01-05 主副でなく相互――文字通り時空を超えて共鳴する月と地球、衛星・惑星・恒星・銀河・銀河団

因みに、地球を回る衛星、は、「今」(といっても宇宙の歴史からみて、ここでは人類発生後の時間的枠組みで、だが、、、)は自転周期と公転周期が一致し、地球には常に一面(半球)しか見せないながらも、摂動秤動といった「揺れ」があることが古来より知られている。ちょうどコマ高速に回転しつつも、円錐様に揺れるイメージだ。でも、月の側だけでなく、「引力」は相互に働き、地球もまた、微かながらも、揺れている。液体地球が膨らんだり、凹んだり、海、潮の干満がそれで、固体と違って、変形する分、実は複雑な相互関係だ。

03-01-01-06 観測者と被観測者――誰が、誰を、誰のために、誰から、誰に、何を、何時、何処で、伝えるのか、否か

「回帰線」の命名をみるだけでも、場所・空間、時代・時間、座標軸の種類とスケール、さらには、観測者と被観測者という様々な面がみえてくる。

天文学と占星術といったもの、東洋と西洋といったものが交錯し、本ブログ全体に通底する話題であり、詳細はいずれかの機会に譲りたいと思う。

03-01-02-00 嵐か低気圧か?

二つ目は、嵐、stormというものを「低気圧」と呼んでいることを考えてみたい。何故、直訳から定訳がずれるかについては、前項の、時と場所、考え方の問題に関わると思われいずれ後述したいが、ここでは、「低気圧」という三文字単語、二語熟語のことを考えてみたい。

03-01-02-01 そもそも熱帯低気圧と台風の違いとは?日本語の場合

中心付近の最大風速10分間当たり平均秒速が17.2m ( 34ノット、風力8 )未満までが熱帯低気圧で、それ以上になると「日本」では台風だ。

03-01-02-02熱帯低気圧の始まり――蚊取り線香様のコイル

熱帯低気圧とは赤道辺の地球では、太陽光が垂直近くにあたるため、暖められた地表・海表(固体・液体)からの気体の大気に移る上昇気流が発生する。それも、自転軸から最遠であるため、最高速に回り地球表面との摩擦によって引きずられる易い状態だ。従って、急な上行をしながらも、そうした地表近くの大気圏、対流圏から、その上の冷たく密度の薄く、地球の自転にあまり引きずられていない大気層に触れ、緩く水平に広く、斜めに下行していく、いうなればつぶれたコイル状に渦巻く気流が生じやすいことになる。

その地表が海の場合、暖められた海表からの水分を多く含んだ上下、東西南北の渦熱帯低気圧/台風となっていく。発生時の基本形態だ。

03-01-02-03熱帯低気圧の加速――高速ジェット・ターボ

水分を多く含んだ大気の流れが、上空の冷気に触れた後、蒸気は潜熱を奪われながら微小な「重い」液体である水分が下降し、終いにはとなるが、このことがターボのように、遠心力と摩擦、コリオリの力等のバランスの中で、海上で水分を補給する陰圧のようになりながら、西と同時に北に動く動きが形成される。一方、これは、地球とい球体をう北上するため、地軸、回転軸に近くなる分、地球の自転に引きずられる力と遠心力、コリオリの力のバランスが崩れていく。従って、海上で一定程度の熱帯・温帯の暖かい海の水分を補給できる海洋の範囲で、さらには、陸地の上行する地形による強制的な抵抗と上行にも「助けられ、多くの場合、東に向きが変わっていくのが台風のコースだ。

03-01-02-04熱帯低気圧の収束――大気に水気を巻き上げてこその台風

北半球では、発生する熱帯海域と、それを受け止める陸地がある、太平洋大西洋インド洋西岸で特にみられる気象、現象だ。

因みに、ターボの語源はラテン語で「独楽、つむじ風」といったもので、タービン、コンバイン、タービュランスそしてトラブルの仲間だ。

その後、水分のない冷たい陸地、もしくは、蒸気を吸い込めない冷たく重たい海表に進んでは、徐々に収束し、消えていく

03-01-02-05 嵐という空気の動き、気圧という空気の圧縮度――「場所」は何処に?

「低気圧」に相当し、英語、気象英語に使われているものがあるが、それは「storm」ではない。「Low-pressure 低気圧」でもなく「Low-pressure area 低気圧地帯」で、「area 地帯」が「日本語」にはない「場所」がない

「低気圧」は大気、空気の疎密のことしか本来は意味しない。何処の大気か、漠として境がみえない

赤道から延々と続く西太平洋の島嶼群の北端の島嶼国此岸からの彼岸は遠くの見えない彼岸でしかないからだろうか?彼我の区別の有無が問題になるのはそのためだろうか?

日本語の日本と英語の英国北半球ユーラシア大陸東西両端にあって、島嶼国であっても、西岸にしか熱帯低気圧が上らないからだろうか?熱帯低気圧の有無の違いなのか、

英語の造語日本語の造語の縛りが違うのだろうか?

03-01-02-04 「世界」の熱帯低気圧

今回の投稿の最後として、日本語版 Wikipedia 「熱帯低気圧」にリンクする各言語版Wikipedia の「熱帯低気圧」の項の一覧を作成した。

いずれこのブログにも統合したいと思っているが、各言語版Wikipediaの比較考察を別に投稿しているが、実に、味わい深い。広大無辺な世界で、日本語版、英語版、simple english版を中心に見るだけでも、様々なテーマがみえてくる。

この「熱帯低気圧」に相当する各言語版の数は実に116ヶ言語地球上で、全部を理解できる人はいないだろう。全部が同じものを描いているか、哲学、認識論や論理学の実物の問題になるかのような、確認できない代物だ。

であっても、じっくり味わっていると、何かの事情やこだわり、或いはこだわりのなさ、等々、伝わってくるものがいくつかある。擱筆したい。