それはなんとも不思議な出来事だった。ウンスがここへきて間がないときのこと。
幽霊が見える・話ができるというのはチェヨンとウンスだけのピミルとなっていた。そうじゃなくとも妖魔だ。天女だなと気味悪がられていた。その上幽霊まで見えるとなれば。
だからほかの人には誰にも話してはいない。天界にいた時だって気味悪がられていたのだ。
ウンスがケガをした兵士の手当をしていた時の話。チャン侍医にも話していない出来事。
「こんなことがあったんです」
他の人にいっても信じてはもらえなくて。疲れていたからだと。それと初めての戦場で興奮していたからだとも言われてしまいました。
「世の中には不思議な出来事もあるものよ」
話してごらんなさい。気が楽になるわよ。といった。優しい天女様だった。つい心が和み話してしまった。
「その時私は野営をしていました」
「それで?」
話しながらも手当は器用にしてくれているので安心できた。
「皆が寝ていました・・私だけ火の当番でしたので起きていたのです」
背後から靴が砂利道を踏みしめる音が聞こえてきたんです。
じゃり・じゃり・じゃり。
ふいに気になり後ろを見てみたのですが誰もいません。
「気のせいかと・・また正面に向き直りました」
すると。またあの足音が聞こえてきたんです。
じゃり・じゃり・じゃり。
今度は先ほどよりも近くに聞こえました。でもその時刻には皆が近くで寝ているはずです。おかしいのは。
「誰もその音を聞いてないというんです」
どう思いますかイセン様。
その時だったチェヨン隊長がやってきた。
「手当はすんだか?」
「隊長」
あわてて立ち上がり敬礼する。じろと睨まれるので冷汗が出てくる。
目で合図された。いけと。そこで兵士はお礼をウンスに言い帰っていく。
文句が出てきそうな顔をされたウンスだったが知らぬふりをして治療のために広げていた道具をかたしている。