#12 ” ドットのふくらはぎに恋して” | タイトル作家の作品集

タイトル作家の作品集

タイトルしか思い浮かばない自称タイトル作家が送る ”クスッ”と笑えるタイトルだけをお届けします。
※内容はハッピーエンド限定で自力でお願いします。

タイトルとざっくりとした登場人物しか思い浮かばない自称・タイトル作家が送る ”クスッ”と笑えるタイトルだけをお届けします。
※内容はハッピーエンド限定で自力でお願いします。

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タイトルだけでは、つまらないとの意見も 親戚からだけですが受取り 最近は少し長めに

がんばっています。 また clever で lazy (賢くて 怠惰) な新しいジャンルとの

賞賛?の声も 海外から一件頂きました。 

タイトル作家としては、自分の仕事以上の仕事をしてしまっているようで そわそわしてしまいますので、 時々初心に戻らせて頂きますが、 今回もまた少し頑張りました。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

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今日のタイトルは、

 ”ドットのふくらはぎに恋して”  です。

 

独身の倉橋は、二年前 警察庁を35才で退職した。

その後 高校・大学の同級生で 現在弁護士をしている親友の八田(はった)と共に

法律相談もできる興信所を設立、自ら 調査員として 企業や個人の調査を行っている。

警察庁に勤務していたとは言え デスクワークが主だった為 調査業務は素人。

しかし 粘り強く誠実な人柄と 警視庁や県警にいる友人から伝授されたプロフェッショナルなノウハウで

実績を積み 加えて 弁護士が共同経営者という安心感もあってか 依頼者は後を絶たない。 

 

今回の依頼は ある有力者の夫人からのもので、 息子の結婚相手に相応しいと思われる29才の女性の身辺調査。 まだ交際にも至っておらず、 息子と母親からの一方的な希望である為、女性本人には 絶対知られてはいけない極秘任務である。

 

尾行の鉄則として 調査員は、 尾行の際 調査対象者に絶対に気づかれないように 常に足元だけを見る。

 

倉橋は 来る日も来る日も E子が自宅を出て 会社に向かい また夕方 会社から自宅にもどるまでを尾行した。

 そしてこの二週間で 気づいた事が二点。

 

E子は 規則正しい生活を送っている非常に好感の持てそうな女性である。

 

もう一点は 稀にみる程の等間隔・およそ2cmで広がっている虫刺されのあとが 

両足のふくらはぎに常に見られる。 

何故 この様な見事な水玉模様の虫刺されが 消える事無く継続的に ふくらはぎにあるのか?

倉橋は どうしてもその原因が知りたくなり ある晩 E子が帰宅後 庭に出て来たところを塀の隙間から覗き見ていた。

すると E子は 軒下に置いてあるケースらしき物を 数個引き出して うれしそうに 霧吹きでスプレーしているのだ。

そして 小声で ” タンパク質も必要だからねぇ ”  と言いながら 何か粉状のものをケースの中に入れている。

それから 小一時間 うれしそうに ケースの中を覗き込みながら 時折 手のひらでふくらはぎをパチンと叩き ぼりぼり掻いていた。

 

謎は解けた! 

あのみごとなドットの虫刺されのあとは この作業中にできたのか!

ケースの中身は虫!

カブトムシか?  いや 違う!

少し重そうに運んだケースはプラスチックではなく 間違いなくガラスだ! そんな

虫にこだわりのあるE子が カブトムシに 粉のえさ以外に ゼリーも与えないわけがない!

蚊取り線香や虫よけスプレーは 虫にとっては命取りである。

心優しいE子は 自らの痛手も顧みず 体をはって 虫の面倒をみていたのだ。

 

と 次の瞬間 美しい鈴の様な音色が聞こえてきた。

鈴虫だったのか!

数個のケースから 時間差で聞こえてくる。

本当に美しい鳴き声。

 

しばらく呆然と立ちすくむ倉橋。

野生のコオロギ達の鳴き声も加わる。

 

庭のシンフォニー

 

まるで 

ブラームス交響曲第4番ホ短調作品98 

の様に 


倉橋の心を揺さぶった。