第七章 四日目・島 その4 | 弐位のチラシの裏ブログ

弐位のチラシの裏ブログ

 ゲーム大好きな大阪のオバチャンがチラシの裏的なブログを書いてます。

 

 

にほんブログ村 ゲームブログ 家庭用ゲーム機へ
にほんブログ村
 今日の十角館の殺人はどうかな?


 「塩なら、さっき君がそっちへ置いたよ」
 スープの味見をして、小皿を持ったままきょろきょろしているアガサに、ヴァンが遠慮がちに言った。
 「よく見ていらっしゃいますこと」
 アガサは振り返って、丸く目を開いた。
 「看守としては合格ね」
 十角館の厨房である。
 ホールから持ってきたランプの薄明かりの中、食事の支度するアガサと、その傍らでじっと彼女の動きを見守るヴァン。他の3人はホールにいて、開け放された両開きの扉から、ちらちらとこちらの様子を伺っている。
 「いい加減にしてよ」
 スカーフでまとめあげた髪に両手を当てて、彼女は金切り声を上げた。
 「あたしの作る物がそんなに不安なんだったら、缶詰でもなんでも勝手に食べたらいいでしょ」
 「アガサ、そんなつもりじゃ」
 「もうたくさん!」
 アガサは小皿を取り上げ、ヴァンめがけて投げつけた。皿はヴァンの腕を掠め、後ろの冷蔵庫に当たって割れた。その派手な音に驚いて、ホールの3人がばたばたと駆け込んでくる。
 両手を握り締め、左右に激しく身をよじりながら、アガサは大声で喚きたてた。
 「何よ、見張りなんか立てて。あたしは絶対犯人じゃないんだから!」
 「アガサ!」
 エラリイとポウが異口同音に叫ぶ。
 「こんな見張りを立てたって、もし料理を食べて誰かが死んだら、どうせまたあたしのせいだって話になるんじゃないの」
 「落ち着け、アガサ」
 ポウが強い声で言い、彼女に向かって一歩踏み出した。
 「誰もそんなことをするつもりはない」
 「近寄らないで」
 アガサは眦を決したまま、じりじりと後辞さった。
 「わかったわ。あんたたち、みんなぐるなんでしょう。4人で共謀して、オルツィーとカーを殺したのね。今度はあたしの番?
 そんなになってほしけりゃ、あたしが本当に犯人になってやるわ。そうよ。『殺人犯人』になってしまえば、被害者の役にまわらなくなっても済むんだから。あたしが犯人よ」
 完全に平静を失い、手足をむやみに振り回して暴れるアガサを、4人がかりでやっと押さえつける。そして彼らは、引きずるようにして彼女をホールへ連れ出し、ムリヤリ椅子に座らせた。
 「もう、嫌」
 アガサはぐったりと肩を落とし、虚ろな視線を宙にさまよわせた。
 「家に帰して。お願いだから。あたし、帰るわ」
 「アガサ」
 「もう帰るわ。泳いで帰るから」
 よほど経ってから、彼女は不意に顔を上げた。そして、抑揚のない声で、
 「食事の用意、しなくっちゃ」
 「あとは誰かがするから、君は休んでるんだ」
 「嫌よ」とアガサが、ポウの手を振り払った。