ラストノート 【モデルズ】 197 | 櫻の葉色

櫻の葉色

左利きマジョリティ

「腐」です。


苦手な方は、回避願います。






「あぁ、どうした?     明日の行きたい場所、決まった?」



「……あしたは、いいや……。」



「じゃ、リビングで 酒でも飲みながら、映画鑑賞でもしようか?」




潤が、スマホを見ていた手を止めて  俺の方に振り返り、メガネを外して 優しく微笑む。



どこまでも甘く、俺に与えてくれようとする 特別な日常。



思わず「うん。」と言いたくなってしまう。


挫けそうになる気持ちを抑えて大きく深呼吸してから、自分の決意を 潤に伝えた。




「あのね?    おれ、仕事に戻りたい。   じゅんの仕事も 手伝えていないどころか  邪魔をしている状態だし、謹慎中の身なんだから 仕事に入れるまで 家に戻らせてもらおうと思ってる。   もちろん、皆にまた迷惑をかけないように、自分で 今後も健康管理はちゃんとしていく。   社長に、お願いしようと思ってるの。」




俺の方に身体を完全に傾けた潤は、ジッと俺の顔を黙って見つめていたが、考えるようにボソリと頷いた。




「…………そうか……。」




予め、日程調整されたスケジュールを変更する事は難しい事くらい分かっていたから、予定通りの日程しか組めないのであれば、裏方でも雑用でもやるつもりで伝えた。



今の状況は すごく楽しいけれど、浦島太郎の龍宮城みたいで怖いんだ。



自分の気持ちが、とことん甘えてしまうから。




「じゅんには、感謝している。   この1週間は本当に楽しかったよ。 ありがとう。」



「…分かった。   社長には俺から話して、今後のスケジュールについても調整してもらうように話をしておく。」



「ありがとう。」




胸の辺りが、チクチクする。。。




「こちらこそ。   まーのおかげで、俺も楽しかった。   明後日の夜、ゆっくり ご飯を食べながら 話をしよう。  俺も、ちょうど 話をしたいと思っていたんだ。」



「うん。      勝手な事 ばかり言って、ごめん。」



「いや、そんな事はないよ。   まーは、前以上に 健康的で綺麗になったね。   復帰したら、きっと また引っ張りだこ だろうな。」



「分かんないよ。   自分の健康管理の不行き届きで、みんなに迷惑をかけた。  また、前と同じように 仕事をもらえるとは思っていないよ。   だけど、もし 与えられる仕事があるのなら がんばりたいんだ。」



「きっと、大丈夫だ。」




胸が、苦しいよ。。。




「くふ。    じゅんはやさしいね。    ありがとう。」



「そんな事は無い。   明後日の夜まで、俺に時間を頂戴?   その間は 家に居てもらいたいが、自由にしていて構わない。」



「わかった。」



「明後日の18時に、話をしよう。」



「ありがとう。」




潤が、俺の話を聞いてくれた事にホッとした。


きっと、明後日も  ちゃんと俺の話を聞いてくれるって思えた。


俺は潤に頭を下げると、宛てがわれた自分の部屋に戻ってドアを閉めた。



苦しくて、苦しくて、その苦しみが溢れ出て 涙となって零れた。