my summer #011 てちりさ



早朝、町内放送のエーデルワイスが町中に響く。



確か朝6時の放送だったはず。もう少し眠ろう。


そのときだった。

バタバタバタと階段を上がる激しい足音が聞こえた。ガチャンと勢いよくドアノブを回し、ノックもしないで部屋に入ってきた暴君は、私の寝ている布団をはぐと声を荒げた。



「ちょっと!理佐さん!友梨奈に変なことしてないでしょうね!」



暴君の正体は、心を改めたはずのヒール。アカネさんだった。

昨日は叔母さんが部屋を出たあと、友梨奈が私にピタリと体を寄せて寝てしまったので、結局1枚の布団で寝た。東京では彼女が泊まりに来ると同じベッドで寝るので、私はそれに慣れてしまっていた。もちろん、だからといって手を出したことは1度もない。


まあ、昨日は耳の後ろにキスしたけど。唇にしたわけじゃないし、女の子同士ならそれくらいは良いよね。



「何もしてないよ。なに?まだ寝ていたいんですけど。」


「お母さんの言ったことは本当だったんだ。理佐さん昨日、友梨奈のこと友達とか妹とか言ってたよね?違う目で見てない?」


「うるさいなあ。」



すると、「理佐…おはよう。」と友梨奈が私の腕の中で、目を覚ました。



「友梨奈、おはよう。まだ朝早いから、もうちょっと寝んねしていいよ。」



そう言って、はがされた布団を元に戻すと、再び暴君は布団を引き剥がした。



「何それ。寝んねってなに。」


「もうアカネさん、何なんですか。」



アカネさん。

その名前で、ようやく友梨奈は目を覚ました。



「ふえ!アカネちゃん!?ごめん。寝ぼけてて気付かなかった。」


「あんたは、寝ても覚めてもボケてるよ。はい。これ、貸してあげる。」



そう言ってアカネさんは、友梨奈に何かを投げつけた。それをみて、友梨奈は目を丸くした。



「これ、アカネちゃんの浴衣。」


「友梨奈、私の浴衣は着れないって言ったらしいじゃん。心外なんだけど。今日それ着て、祭りに行かないと許さないから。」



友梨奈は、キョトンとして私の顔を見ている。



「アカネさん、今は、そういう気分なんだよ」



アカネさんは不器用なりに、友梨奈に近づこうとしている。今は、それでいい。



「あ、ありがとう。」


「…うん。」




午後、友梨奈が座敷で、おばあちゃんと叔母さんに着物に着付けられている間、私とアカネさんとダイスケくんは居間で暇を持て余していた。


照明の引き紐にはアニメの指人形がぶら下がっており、眉間にシワを寄せながらダイスケくんは、それをいじっている。その様子にアカネさんは言った。



「ダイスケ。あんたさ、友梨奈のこと好きでしょ」



私は、思わず咳き込んでしまった。

アカネさんは、私を見るとニヤニヤと笑った。



「いや、いつ俺が友梨奈のこと好きって言ったよ。第一、俺と友梨奈はいとこ同士。」


「いとこだって結婚はできるでしょ。」


「えっ、マジ?姉ちゃんそれ先言って〜。」


「いや。知らんかったん?あー、この夏は随分忙しなくて面白いね。ねえ、理佐さん。」



こいつ、完全に私をおちょくっている。昨日の話、全部暴露してやろうか。



「かんわいい〜!!!ゆりちゃん、天使ね。」と座敷から叔母さんの歓声があがった。いよいよ、お披露目。


友梨奈はふすまから顔を覗くと「いやだなあ。」と恥ずかしそうに全身を見せてくれた。纏うのは、橙色の大きな椿があしらったデザインの浴衣。



「わ。友梨奈が友梨奈じゃない。」


「ダイスケ、鼻の下が伸びてるよ。」



私はあまりのかわいさに、言葉も出なかった。


浴衣だけみると少しギャルっぽいなんて思っていたけど、彼女が着るとモダンでレトロなものに変わった。

友梨奈を友だちでもなく、妹でもなく、恋人としてみる。なんて、考えたこともなかったけど…。


まあ、アリよりのアリだよね。




「どうかな。理佐。」


「かわいい。世界で一番かわいいよ。」


「あらやだ、おばちゃんドレミが止まらないわ!ちょっと、今度は王子の番よ。ばあちゃん、理佐さんの着付けもお願い!」と、叔母さんに半ば強引に隣の部屋へ移動させられた。


「俺も甚平着て行こうー!」とダイスケくんも自分の部屋へ行き、居間には友梨奈とアカネさん2人きり。


でも、もう大丈夫だよね?



「友梨奈、かわいいよ。」


「そ、そうかな。アカネちゃんの浴衣がかわいいからだよ。」


「うん、そうだからね。それ着てる友梨奈。かわいすぎて….食べちゃいたい。」


「ええ…。」




なんか、

別の不安要素は増えた気がするけど…。