my summer #013
(てちりさ)


白い服の女性。
ひまわり畑。
レコード。
歳上の奥さん。
連絡のとれない娘。

そして、回転式の拳銃。

そうか。
金庫の数字は、それがヒントだったのか!


友梨奈は手で作った拳銃のシリンダーを「カチカチ」と回した。

「友梨奈!」

「なっなに!?びっくりした!」

「わかった!金庫、もしかしたら開くかも!」

「え!ええ!?」

「理佐さん、それはどういう?」


ようやく、点が点が繋がった!


「浦野さん、レコード見てもいいですか?」

「も、もちろん。」


きっとこの中に、あのアルバムがあるはず。棚の中段に数枚のレコードを見つけた。「友梨奈、あったよ!」と誇らしく、その棚から取り出したのは、レコード盤ビートルズのリボルバー。


「あ〜!これ!お母さんが好きだったCDとジャケットと一緒!」


ビートルズが線で描かれたイラストのジャケット。今でもこのオマージュは時々、ポスターなどに使われているのを見かける。電子を駆使し仕上げた、このアルバムは現代音楽を先駆けた至高の傑作と呼ばれている。しかし、それはあくまでファンの間の話であって、アルバム自体はマイナーで、ビートルズ初心者の友梨奈のお母さんが、これだけ持っているということが不思議だった。


「それは、妻の1番好きだったレコードだよ!」

「多分、友梨奈のお母さん、浦野さんの奥さんの影響であのアルバム買ったんじゃない?奥さんバスキア好きなら、きっと好きだよリボルバー。ほら、オノヨーコもバスキア好きじゃん?」

「知らないよ。」

「浦野さんの言っている「娘」さんの名前って、もしかしてユウカじゃないですか?」

「どうして、その名前を?」

「ビンゴ!」

「ええ!そうなの!」と、友梨奈は信じられないと手で開いた口を防ぎながら驚愕している。

「じゃあ、浦野さんは私の血の繋がったおじいさん?」

「あー、違う違う。そうすると、ややこしくなるから順を追って説明するね。まず。浦野さん。」

「はい。」

「ユウカさんは、友梨奈のお母さんなんです。」

「あー、そうか。どおりで似てると思った。」

「それなら、娘さんと連絡がつかないという理由もわかる。浦野さんに、子供がいるって言ったとき、おかしいなと思ったんです。だってこの部屋には、子供の写真がないじゃないですか。」


そう、この部屋には奥さんの写真は何枚も飾ってあるのに、何故か子供の写真が1枚もない。さっき写真を撮った時、友梨奈をいつでも見たいなんて言っていたが、そんな人が娘の写真を1枚も飾らないのはおかしいと思っていた。


「私の妻は、結婚したのが高齢だったもんで、子供を産むのを諦めたんだ。そんな時に、小学生のユウカちゃんが、この家にやってきたんだ。「お家がお城みたいだから、中を見せて欲しい」って。それから、よく遊びに来てくれた。今の友梨奈ちゃんみたいにね。本当の子供のように、私の妻は可愛がっていた。」

「えっ!待って。じゃあ、金庫の鍵を開けられるのは、私のお母さんってこと。」

「ああ、ユウカちゃんだ。」

「お母さんは待ったって帰って来ないよ!あー、お宝が〜。」

「友梨奈、それなんだけど。お母さんは私たちに充分ヒントをくれていたんだよ。」

「どういうこと?」

「友梨奈のお母さんと奥さんが好きだったリボルバー。日本語に訳すと回転式の拳銃になるんです。」

「あ、オバケが持っていた拳銃と一緒だ。」

「そうなの。」


すると、浦野さんは得意げにアルバムについて補足した。きっと、奥さんの入れ知恵なんだろう。


「ビートルズは、まだあの時は仲が良くて、メンバーとの会話は話題が尽きなかったらしい。会話が回る、話が回る、それからこのアルバムで時代も回る。リボルバーというタイトルは、ジョンの考えた言葉遊びだよ。」

「そう、言葉遊び!さあ、そこで友梨奈ちゃんに問題です!カチカチカチって回転させるもの、リボルバー以外になにがあるでしょう・・・。」

「え?んーっと。んーっと。」

「ヒントは、この家にあります。カチカチカチ。」

「カチカチカチ?あ、わかった金庫!」

「正解!そう金庫の鍵は、このアルバムにあり!」

「おお!」



私は、そう確信し、浦野さんにお願いしてレコードをかけてもらうことにした。携帯のダウンロードじゃ聴けない、レコードならではの味がある。


「うーん。友梨奈、いい音色だね〜。」

「で、理佐。それで、数字はなんなの?」

「それがわからない。頭の2つはあれだなってのはあるんだけど。」

「なんだあ。ねえ、おじいさん奥さんの好きだった曲とかないの?」


すると、5曲目が流れた時、浦野さんがハッと顔を上げて言った。


「妻は、この曲が好きだった。」

「え、これかあ。私は好きじゃない。あー、もう理佐の吐息思い出しちゃって、身震いする。」

「とか言って友梨奈、それ身体は喜んでるんだよ、きっと。こっちおいで。私のお膝で一緒に聴こう。」

「やだよ。謎解きに集中して。」


ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア
友梨奈が、クサすぎるといったビートルズ渾身のラブソング。そんな彼女は歌詞カードを取り出し、その曲のページを開いた。


「あっ!」

「どうしたの?」

「丸ついてる」


タイトルにペンで赤丸が付いていた。
あと2桁の数字二つは、この曲に隠されているということか。
5曲目ってことは05?とか?違う。数字が足りない。


「うーん。ここまで来てるのに、数字がわからない。友梨奈?なんかヒントかかれてない?」

「ヒントどころか、私は歌詞も読めないよ…。」


この曲の歌詞に数字は出てこないはずだし。じゃあいったい…。
読めない歌詞カードを友梨奈は凝視している。


「うーん。これしか読めない。…あっ!」

「なに?」

「理佐、わたし…0226しか読めない!」

「曲の収録時間!それだ!」


リボルバー、奥さんが所持していたのは、イギリス版のLP。製品番号は7009。そして、ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエアの収録時間。2分26秒。

70、09、02、29。

再度、お目見えした金庫を部屋の中央に置き、浦野さんは、クルクルと手慣れた手つきでレバーを回し数字を入れていく。



そして




カチャ…。




「開いたぞ!」


こうして、20年ぶりに重たい金庫の扉が開いたのだった。