my summer #016(てちりさ)


祭りが終わり友梨奈に夢中の同級生を追い払い、なんとか帰路に着く。街灯の間隔が都会よりも広くて、道が薄暗い。田んぼでカエルが鳴いている。

隣に歩く彼女は私と肩がぶつかり、足元がふらつく。


「大丈夫?眠い?」

「ちょっと眠い。・・・あと2週間早かったら、ここで蛍も見れたんだけどね。いつもはただ通り過ぎるだけなのに、すごく綺麗で・・・。みんな、ここで足を止めるんだ。」

「ホタルなんて久しく見てないなあ。」

「今日はみんな・・・理佐を見て足を止めてた。」

「友梨奈のこと見てたんじゃない?」

「ううん。理佐のこと見てた。・・・綺麗だから、みんな振り返って足を止めて見てた。さっき、わざと人通りのある道を選んで歩いたよ・・・。理佐のこと見せびらかしたくて。」

「ふふ。何言ってるの?」

「・・・眠い。」

「ん?」

「眠くなってきた。」

「あとちょっとで着くからね。」

「うん。・・・理佐の隣にいるのは私だね。私は知ってたよ。・・・理佐が綺麗なこと。・・・いつも知ってる。」

「・・・ありがとう。」


友梨奈は寝ぼけているのか疲れちゃったのか、ブツブツと褒めてくれる。普段は言わない言葉とホワホワと千鳥足で歩くのがかわいくて、私は彼女を起こすのをやめ、ただ転ばないように支えた。



「ただいま、戻りまし・・・。」

「遅い。」

玄関を開けると、アカネさんが仁王立ちして待っていた。


「布団敷いたから早く着替えて寝るよ。」


やっぱり、覚えてたか。
初日の夜に3人で寝ると言ったのは本気だったらしい。
アカネさんの部屋には、ベッドがあるのにわざわざ布団が引いてある。
もちろん、真ん中を陣取るのはアカネさん。

まあ正直、今日は二人で寝なくて良かったと思ってる。なんとなく・・・。ね・・・。


「さあ、夜の女子会はじめまーす!」

「アカネさん、テンション高いよ。」

「ねぇ、さん付けやめない?アカネでいいよ。だから、アカネも理佐って呼ぶね。」


今夜は、長くなりそう・・・。


「はあ・・・。」

「あ。今、理佐、ため息ついたでしょ。」

「気のせい。気のせい。」

「ねえ、友梨奈。今の聞いたよね?絶対ため息ついたよね?」

「・・・・。」


友梨奈は、早々と夢の中へ。
今日も色んな出来事があって疲れちゃったよね。


「ちょっと、何寝てんの?」とアカネは、友梨奈の体を揺すった。

「起こすな!」

「はいはい。・・・かわいいね。赤ちゃんみたいな寝顔してる。」


アカネは頬杖をついて、寝顔を眺めている。惜しいものを失ってしまったとでも思っているのだろうか。


「かわいいなあ。これは、かわいいわ。抱きしめて寝ても起きないかな。」

「そういえば、私が座敷で浴衣着付けてる時に、また友梨奈に余計なこと言ったでしょ?」

「え?余計なこと?なんだろう。ああ!理佐を頂戴って言った。」

「また、くだらないこと言って。」

「でも、友梨奈は真面目に答えてくれたよ。他のものは何でもあげるから、理佐だけはダメだって。理佐だけは渡さないって。」

「・・・・。」

「本当に理佐のことが好きなんだね。・・・って、聞いてる?」

「・・・うふふ。」

「ちょっ。顔歪みすぎ。綺麗な顔が台無しだよ。」

「じゃあ、ちょっとお隣失礼して・・・、今夜は友梨奈ちゃんを抱いて寝ましょうかね。」

「やめて。」


抱いて寝るって不健全な意味で言ったわけじゃないのに、けっこうガチ目に引き留められた。
もう立派な従姉妹じゃん。


「でも・・・はじめて、この子の本音聞けた気がする。私に対してはじめて遠慮のない言葉だった。理佐ありがとう。」

「私は、特段したことはございませんよ。」


最初は絡みにくい厄介な人だと思ったけど、打ち解けてみると、気持ちのいいテンポで言葉が返ってくる。アカネとはいい友達になりそうだ。

それに本来は面倒見の良いお姉ちゃんって感じだし。今なら、いくらでも関係を修復できる。


「ここはなんだか、東京よりもあたたかい気がします。」

「ちょっと南にあるからかな。」

「ふふ。温度の話はしてないです。あなたが、従来通り稀代のヒールを演じてくれたら、すぐにでも友梨奈を東京に持って帰ったんですけどね。」

「酷っ。そんなこと思ってたの?」

「ええ。もちろん。」

時計を見ると0時を超えているが、今夜はお互い饒舌だ。天井の電気を消して、かわりにオレンジの間接照明をつけた。だが、私たちの話題はくるくると回り、時計の針もくるくると回る。

私たちが互いに向け合うのは、友梨奈という可憐な少女を詰めたリボルバーなのだ。