my summer #017てちりさ
翌日の早朝、友梨奈の叔父。亡くなった母の兄が出張から帰ってきた。また、どんな強烈なキャラが現れるのだろうと身構えたが、その必要はなかった。
「はじめまして、渡邉理佐です。」
「ああ、君が王子か。」
「それ浸透させないでくださいね。」
魚釣りに付き合ってほしいというので、すぐに着替えてトラックで川へ向かった。友梨奈も行きたがっていたが、トラックは2人乗りだからとお留守番させられた。きっと、おじさんは、彼女のこれからのことを話し合うつもりなのだろう。
トラックに乗るのは初めてで、何だかワクワクした。
「なんか、エンジンの音がいいですね。」
「理佐ちゃんは、おもしろいこと言うね。それで、今日は何時の電車で帰るんだ?」
「お昼過ぎですかね。とりあえず、私は。」
「そうか、じゃあ昼ご飯が最後か。おいしい魚食べさせてやらんとな。」
トラックを道の脇に停車させ、階段とも言えない岩の段をゆっくり降りた。魚釣りの準備は事前に終わっていたらしく、思っていたより、すぐに始められるものだった。叔父さんは膝まで川に浸かるくらいのところで、竿を振った。私は、近くの大きな岩に座って眺めている。
「鮎が当たればいいな。」と叔父さんは振り返って笑った。
「私、川魚ってあまり食べたことないかもしれないです。頑張って釣ってください。」
「任せてくれ。」
実家でもあまり経験できないことをさせてもらっている。田舎に実家があるっていいなあ。
「友梨奈、理佐ちゃんに懐いてるらしいな。妻から話は聞いてるよ。」
ここで、ようやく本題。
「人に甘えてるところ初めて見たって、理佐ちゃんが隣にいると幸せそうに笑うんだって。うちにいるときは気を遣って、我慢ばかりだった。高校を東京なんて選んだのは、アカネの気持ちも組んでなんだろ。友梨奈はそういう子だ。」
「知ってたんですか?」
「ああ、どれだけ叱っても隠れて嫌がらせするんだから、どうしようもないよ。友梨奈はどんなにやられても、何事もないように耐えていた。」
「でも、アカネさんが嫉妬する気持ちはわかります。自分のお気に入りの浴衣を着せられるのは、嫌かもしれません。お下がりが着られないってことは、友梨奈は友梨奈で服を買ってもらってたわけですよね?おばあちゃんと、おばさんに。それに、バレエを習わせるのも、自分より大事にされてるって感じするじゃないですか。レッスン料ってわからないけど高そうですし」
「いやいや、あれは友梨奈のお父さんのお金で習わせてたものだから、うちからは何も。」
「そうなんですか。」
「ああ、理佐ちゃんに予め言っておいた方がいいね。あの子はお金には困ることはないよ。お金の面で気を使ってもらったら、それこそ困る。それくらい、お父さんからもらってるってことは覚えておいてほしい。」
確かに友梨奈には申し訳ないけど、両親がいないことは、イコール経済的に苦しいと思っていた。
「だからね、もし理佐ちゃんが友梨奈のこと好きなら、一緒に遊んでやってくれないか。」
「遊んでやってって・・・。」
「いや、何も博打を楽しみなさい。なんて言わないよ。理佐ちゃんだって大学生だろ。普通のさ、誰もが経験する青春を教えてあげてほしい。とにかく、僕はね。ひとりになった今、友梨奈には遠慮して生きて欲しくないんだ。」
叔父さんは、真面目な顔で訴えた。
「それから将来のことも、気にしてやってくれないかな。」
「将来のこと・・・そのつもりでした。私が友梨奈の夢を見つけてあげて、私がそれを叶えてやるんだって。でも、私なんかでいいんでしょうか。ここよりも底冷えした、あの街へ帰っても大丈夫でしょうか。」
正直にいうと、今は東京に戻らせることに億劫になっていた。つまり、東京という地が友梨奈のためになるのか、今は分からないのだ。読み書きの障害のことを考えると、常に家族がいる環境は大きい。
おじさんは1度、リールで餌を巻き上げて私の話を聞いてくれた。
「私は、この家に来るまで皆さんのこと誤解していました。ただでさえ苦労が多いはずなのに、何故、友梨奈を東京にいかせたんだろう。厄介者扱いにでもされてたんじゃないかって思っていました。でも、違ってた。とても愛されてたことが、3日間でよくわかりました。すごく素敵な家族だということも。」
「そう言われると、なんか恥ずかしいなあ。」
「だから、正直思うんです。果たして東京に戻るのは、ベストな選択なんだろうかって。豊かな環境と温かい家族がここにはある。私なんかじゃ、足らないんじゃないですかね。」
すると、おじさんは間髪を入れずに言った。
「何言ってんの。私たちは義務教育と同じで、彼女に選ばれて6年間を一緒に過ごしたわけじゃないんだ。言わば、仕方がなかったとも言える。君は、一緒にいたいと友梨奈が求めたはじめてのお友達だろ。」
おじさんは再び、餌を川に沈め、何事もなかったかのように魚釣りを再開した。
友梨奈にとって大事なのは何か。何処でどう生きるかは、私たちが決めることじゃない。
確かに、その通りだ。
「おっ!大物がかかった!」
岩場を縫う川のせせらぎが私の心を癒し、気づけば太陽が天辺に近づいていた。