my spring #012 (てちりさ)
夕食を食べ終えて、友梨奈はソファーに横たわりながら画集の続きを見ている。たったの4日間だけど、色濃くあっという間だった。正直、私はまだ5日間の約束に整理がついていない。私は友梨奈と出会うことで、筆を持つことに再起し大学にも戻っている。そして、何より彼女といる、この時間が好きになっていた。
「友梨奈、明日で終わりだね。」
「そうだね。」
「明日、家来る前に携帯カバー買いに行く?」
「うん。」
そんな私の気も知らず、画集から目を逸らさず彼女はそっけない返事をするだけ。
「ねえ、友梨奈。」
「何?」
「触ってもいい?」
「は?」
「変な意味でじゃないよ。最終、あの絵に肌の質感も表現したいからさ。だから、触らせて。」
「なんか、よくわからないけど。作品のためならいいよ。ちょっとだけね。でも、変なとこは触らないでね」
「ふふふ。変なとこってどこ?」
ソファーに座り直した彼女の腕をとって、真っ白な肌を撫でてみる。見た目通り、もちっとしていて柔らかく滑らかな肌だった。
「なるほどね。」
「何?なるほどって。」
「気持ちいい。」
「何それ。」と友梨奈は笑った。
頬を両手で覆うように触ると、目を細めて怪訝な顔をする。それでも、逃げることはせず、委ねてくれたことが嬉しかった。この時間が永遠に続けば良いのに。
「ねえ、靴下脱いで。」
「え、脚も触るの。関係ないじゃん。」
「知ってる?本当は人の家に上がるときって靴下も脱ぐんだよ。」
「そんなの聞いたことないよ。」
聞いたことない?そりゃそうだ。
さっき思いついたんだもん。
「良かったね。今後、恥晒さなくて。」
そう言って靴下に手をかけると「自分で脱ぐから!」と私を制止させた。友梨奈は自ら靴下を脱ぐと、脚を私の前に差し出した。
その姿を見て、少しばかりかドキドキしている自分がいる。誰もまだ、触っていないところに触れてみたかった。何もかもが真っ白で、汚れを知らない少女に刻印を押してみたい。ひねくれた独占欲が湧く。
今の私は、あのテニスの王子様よりも強引で、めんどくさい。
「んっ・・・。くすぐったいよ。」
片手でかかとを持って、足の爪先から撫でて行く。何してんだろ自分と思いながらも、やめられない。顔を見上げると、友梨奈と目が合った。何だか急に恥ずかしくなってしまい、私は目線を逸らしてしまう。
そんなことを彼女はつゆ知らず。
「なんだか、眠くなってきちゃった。」
「そう。」
何にも知らないんだ。
この世の怖いことも、恐ろしいことも。
だから私は、ずるい大人だ。
「さっきの理佐の料理、美味しかったな。」
「普通だと思うけど。」
「理佐は絵も上手いし、料理も上手いし、いっぱい才能があってすごいね。私も人よりできることないかな。」
「このくらいは努力でなんとかなるよ。私は努力型の人間だから。でも・・・。友梨奈は何か持っている気がする。ただ才能が眠ってるだけなんだと思う。なんとなくだけど。一緒に見つけてあげたいな。」
ふと、無性に悲しい気持ちに襲われる。
友梨奈の今の気持ちが知りたい。彼女の膝に耳を当てみる、そうしたって答えは聞けないのに。
聞かなきゃ。
「私、友梨奈といる時間、すごい好きだよ。」
「うん。」
「じゃあ5日だけってなんで、そんなルール作ったの?」
「特に意味はない。」
「じゃあ、これからも会いにきてくれる?」
「それはできない。」
「どうして!!」
思わず声を荒げてしまった。
さっきから、友梨奈のその余裕を装った態度が気に入らない。私ばかり翻弄されて感情的になって、馬鹿みたい。
そのくせ、理由は隠して教えてくれないし。
落ち着かせるように、友梨奈は私の頭を優しく撫でてくれた。そして、しばらく経ってから、彼女は訪ねた。
「理佐は私と、お友達になりたい?」
「なりたいよ。なんで、そんなこと聞くの?」
「じゃあ。」
すると、友梨奈は私を振り払い、靴下を拾い上げ、突然帰り支度を始めた。
「何?」
「ごめん、帰る。悪いけど、モデルは今日でおしまい。」
「え、何で?明日は?」
「気が変わった。もう会うこともないと思う。4日間ありがとう。」
「本気で言ってるの?」
突然のことで理解出来なかった。ただ、帰り支度を淡々と進めるのをみるとどうやら本気らしい。
私は彼女の腕を掴み、自分の方に引き寄せようとしたのだが、体を向けないように硬直した。
「友梨奈は、それでいいの?」
「それでいいっていうか。モデル疲れちゃったし。」
「嘘だよ。じゃあ、なんで?」
「・・・。」
「なんでそんな悲しい顔するの?」
「理佐。ありがとう。」
「ヤダ!行かないで!」
今にも泣きそうな顔で、友梨奈は部屋を後にした。
それから彼女とは、音信不通だ。