my spring #013


梅雨ならでは湿気混じりの空気が、私の気分をさらに憂鬱にさせる。



友梨奈と音信不通になり1週間。
私は抜け殻のように生きている。


これほどまで人生をつまらないと感じたことはない。1週間前、大学を辞めようと思っていた時の方がまだ、ましな気がする。


友梨奈を高校の門で待ち構えてやろう、なんてことも考えたりもしているけども、嫌われるリスクがあることは避けたい。どうしたら、彼女はもう1度、私に会ってくれるだろうか。



「おーい。理佐ちゃん。今のスマッシュ見てた?」


「あ、ごめん。見てない。」



テニスの王子様こと、ミズキくんにテニスサークルに誘われたが、正直テニスなんかやる気分じゃない。




「ねえ、理佐。ミナミとユニフォーム姿のミズキくんの写真撮って。」




テニスサークル友達のミナミちゃん。たぶん、ミズキくんのことが好き。私は彼のおかげで、こうして大学の子たちと話せるようになり、なんとか引きこもらずに通えている。




「写真。撮ってあげるから、ミナミちゃんの携帯貸して。」


「ううん。理佐の携帯で撮って、あとで送って。」


「いや、なんで私の携帯?」


「携帯、教室に忘れて来たから、取りにいくのめんどくさいんだもん。」




なんて言い訳してたけど、さっきまで隣で携帯をいじっていたことを私は知っている。ツーショット写真を私の携帯に保存させて、一体なにになるというのだろう。




たぶんミナミちゃんは、私とミズキくんのことを何かを勘違いしている。


問い詰めるのも面倒くさいので仕方がなく、私の携帯で写真を撮りラインで送ってあげた。


「今送った。」


「ありがと理佐。」と言って、教室に忘れたことにしてある携帯を、ポケットから取り出し確認している。


そこは、徹底しなさいよ。


「なんだ、ミナミちゃん携帯持ってるじゃん。」


流石のミズキくんでも気がついたか。


「あれ?本当だ。持ってたあ。」

「ミナミちゃんって天然なんだね。あはは。」


お前もな。


「今の写真。そく、消してやる。・・・あっ。」


画像フォルダを開いたら、図書館で絵本を読んでいる友梨奈の写真が出てきた。
夕日に染まった図書館。太陽が沈んだら彼女も一緒に消えてしまうかもしれない。なんて、儚い気持ちになり、シャッターをきった。

本当に消えてしまうとは。


「理佐、その写真誰?」

「天使。」

「天使?それ人だよ、たぶん。」

「私・・・いかなきゃ。ありがとう2人とも!」

「理佐ちゃん、どこいくの?」

「図書館。」



友梨奈と出会った運命の場所。
もしかしたら、絵本を借りに来ているかもしれない。













ところが、そこに彼女の姿はなかった。


私は、スケッチブックを1枚破り、友梨奈に宛てた手紙を書いた。なんてことのない手紙。




もしかしたら、読んでくれるかもしれない。



どの絵本に挟もう。友梨奈があさっていた本棚から1冊の本を取り出す。




「あ、これにしよう。」


絵本のタイトルは、クリムトと猫


友梨奈が好きだと言っていたクリムト。
彼は気難しく変わり者だったそうで、近づきにくい人物と言われている。そんな彼の生活を飼っていた猫目線で語られる絵本。
簡単に言うと、イタリア版の吾輩は猫である。みたいな感じ。

猫にとってクリムトは、とても愛らしい人物と描かれている。私と友梨奈どこかリンクする気がする。
今週のおすすめとピックアップされている本を「クリムトと猫に」入れ換える。
 

「グスタフ・クリムト!お願い!」





宛先の不安な手紙に切手を貼ることはできない。私は代わりに念を貼り付け、絵本に投函した。