my spring #020+2 (てちりさ)
今日は土曜日。お互い授業がないので、約束していた携帯ケースを買いに、理佐が渋谷に連れて行ってくれる。
私のお買い物に行くだけなのに、朝ごはんのパンを用意しながら、理佐は鼻歌なんか歌ってなんだか楽しそう。
あっ今あくびした。
昨日は私のせいで、よく眠れなかったのかな。
「友梨奈、携帯ケースどんなのがいい?」
「えっ。あー理佐と同じ携帯ケースがいい。」
「あれ、服のブランドのスマホケースだけど。」
「うん。理佐と一緒のでいいよ。」
特に欲しいケースはないから、理佐のと一緒でいい。理由は特にないけど、理佐が持ってるということは、一般的に見ておかしくはないってことだと思うから。
「昨日まで連絡して来なかったくせに。私のこと本当はすごい好きだったんだね。」
「そんなんじゃないよ。だって、オシャレじゃん。」
「はい、はーい。」
お揃いの携帯ケースはブランドの店舗があれば、どこでも買えるらしく、私の行ったことのない渋谷に連れて行ってくれることになった。
「渋谷に行くなら派手に行くね」と理佐はお化粧を始めた。いつもはしてない濃い色のアイシャドウに、マスカラを塗って、ますます綺麗になっていく。お姫様みたい。
「ねえ、そんなに見られるとやりにくいんだけど」
「あ、ごめん。理佐、元々綺麗なのに、もっと綺麗になってくから。」
ガタッ。
理佐がリップを手から滑らせてしまった。
私、なんか変なこと言ったかな。
「素直って本当に厄介・・・。あ。ねえ、友梨奈もメイクしてみる?」
「え、私は大丈夫。」
「いいから、いいから、おめかししましょうね。」
理佐は対面に私を座らせると、いろんなお化粧道具を顔に塗っていく。人生で初めてのメイク。お姉ちゃんがいたら、こんな感じなのかな。
お互いの顔がよく見える。
理佐の顔は鼻が細くて、目がキリッとしてて、唇の形も綺麗。私の顔のパーツはどうだろう。変じゃないかな?
「友梨奈、そんなに鼻の穴小さくて息できてる?」
「鼻の穴小さい?」
「うん。」
「それって、変かな?」
「かわいいよ。」
添えられる手は、私より一回り大きくてあたたかい、その手で体を触られると気持ちよくて、眠たくなってくる。
「できたー。わあ、やばい。かわいい。かわいすぎる。ねえ、どうしよう。かわいいんだけど。」
そう言って鏡を見せてくれた。
「だ、誰これ。」
かわいいかはわからないけど、別人のような私が鏡にうつってる。
「理佐、これ恥ずかしいよ。」
「大丈夫大丈夫、ただかわいいだけだから。せっかくメイクもしたんだし、私服着たいよね。一回、寮に帰るのめんどくさいから、私の服貸してあげるね。」
朝の日差しが眩しい窓の格子に目をやると、私のセーラー服がかけてある。昨日は学校からそのまま、このアパートにやってきた。今は、理佐のスウェットを借りて着ている。その香りが名残惜しくて、理佐が服を選んでいる間、私は袖に鼻を押しつけている。
「うん。理佐の匂い。」
選んでくれたのは、大人っぽい黒の花柄のロングワンピース。普段、ワンピースなんか着ないからドキドキする。
「どうかな?」
「ああ!かわいい!すごい似合ってる。友梨奈、お人形さんみたい。素材がいいんだから、これからいっぱいオシャレしようね。」
お人形さんみたいか。確かに今の私は着せ替え人形。オシャレに興味あるわけじゃないけど、理佐が楽しいなら、なんでもいいや。
「り、理佐のスカート短すぎない?」
「そお?履いてみたい?」
理佐はタイトなミニスカートを履いている。綺麗な長い脚が伸びていて、見入ってしまう。
「友梨奈はこんな短いの履いちゃダメだよ。膝上に丈がくるスカートは履かないでね。わかった?」
「どうしてダメなの?」
「あー。えーっと。そうだね。似合わないからかな。」
「そっか、わかった。」
理佐は、ちゃんと私のことをよくみて物事を教えてくれる。間違っていても正しい方に修正してくれるから、理佐の言うことを聞いていれば迷うことはない。
理佐は優しいなあ。
山手線に乗って渋谷駅へ。人がいっぱいで、前が見えない。外国人や、変わった色の髪の毛の人たちがいっぱいいて、ちょっと恐い。
スクランブル交差点、赤信号が青に変わる。
「理佐、待って。」
「ん?どうしたの?」
「離れちゃったら、理佐に会う自信ない。」
理佐は微笑んで、手を繋いでくれた。
「これなら、平気?」
「うん。ありがとう。」
ショッピングビルに入っている理佐の好きなブランドのお店に入ると、小麦色の肌をした穴あきのスキニーパンツを履いた女性の店員さんに「姉妹ですか?」と聞かれた。理佐は「妹です」と私を紹介した。
今日の私と理佐は姉妹の設定なんだろうか。
「妹のために今日きたんです。」というと、店員さんは、私を足から頭までみながら言った。
「妹さん、うちのブランド好きなんですか?」
「まだ、わからないです。」
私の返しに首をかしげる店員さんをみて、理佐は慌てて代わりに訂正した。
「あー、そうじゃないんです。私がこのブランド好きで、オリジナルの携帯ケースを持ってるんですけど、私と同じ携帯ケースにしたいみたいで・・・。」
「そうなんですか!お姉ちゃんと一緒にしたいなんて妹さん、かわいい!」
「でしょ!かわいすぎるんです。」
理佐は白のケースだったので、私には黒のケースを買って、その場でつけてくれた。お揃いのケースをつけることで、私が理佐の1番になった気がして嬉しい。
「ついでに、友梨奈にかわいい服を着せたい」と、別のお店で深緑のロングワンピースを1着買った。これといって、私には洋服の好みはないから理佐のセンスで選んでくれるのは助かる。
私はこれから理佐色に染められていくのかな・・・。
エレベーターで下の階に降りる。いつもは、人との間に1段はあけて乗るけれど、今日は理佐の後ろにべったりついてる。1つ上の段から理佐を見下ろすと、つむじから数センチ、まだ染められていない黒髪が見えた。
これは、本人も見ることのできない産まれたての理佐。本当の理佐。
「よし、もう1着買いに行くよ。」
「え。でも、そんなにいっぱいプレゼント困るよ。」
「いいの。私が好きにしてるだけだから。」
「私って、理佐の着せ替え人形?」
私が変なこと言うから、理佐は困った顔をしている。困らせるつもりはなかったのに。
すると、落ち込む私をみて、理佐は嬉しそうに言った。
「そうだよ。友梨奈は、私のお気に入りの着せ替え人形。壊れないように、ずっと大切にするんだ。嫌だ?」
「うーん。嫌じゃないかも。捨てられないように、努力する。」
「努力なんかしなくても絶対、捨てないから安心して。あと友梨奈が逃げてたとしても追いかけると思う。どこへでも。」
まるで、お人形さんに触れるように、理佐は私の髪を手櫛でといた。
「友梨奈の黒髪好きだよ。」
「私も理佐の黒髪好きだよ。」
「え?私、染めてるんだけど。」
「へへへ。知ってる。」
理佐はエレベーターの鏡ばりになっている壁を見て、自分の髪を左右に振って確認した。
そんなことしても、理佐の黒髪は見えないよ。
「私のアパートに置いておく、友梨奈のパジャマが欲しいの。私はこのパジャマ着る自信無いんだけど、友梨奈には来てほしい。」
「私、こんなかわいいの似合わないよ。」
下の階のフロア。連れてきてくれたのは、ふわふわ、もこもこのパジャマ屋さん。
私が似合わないと言い張っても、理佐は聞かん坊で何着か選んで、私を試着室に呼んだ。一生懸命選んでくれたので、仕方がなく全て着てみせた。
「んー、どれもかわいい!もこもこしてて、友梨奈ぬいぐるみみたい!抱きしめてもいい?」
「ここでは嫌だよ!」
「いいじゃん、ちょっとだけ!じゃあ試着室の中で抱きしめてあげる!」
「まだ、買ってないからダメ!」
試着室に理佐が入ってこようとした、その時だった。
「え?てち?てちなの?」
「あ。ヒカル。てちだけど。」
声をかけてきたのは、同級生の女の子だった。
「てち、すごくかわいい!いつも寮で、ジャージ着てなかったっけ?そういうのも着るんだ。」
「違うよ。この人の、着せ替え人形になっただけ。」
「着せ替え人形?もしかして、てちのお姉さん?綺麗な人!はじめまして、てちの同級生のヒカルです。」
「こんにちは。友梨奈のお姉ちゃんの理佐です。友梨奈、学校でてちって呼ばれてるんだ。なんで、てちなの?」
私は頭を傾けた。
クラスのみんなが、私のことをてちって呼んでるのはなんとなく知ってたけど、あだ名の由来は知らない。
「平手ちゃん、ひらてち、てちです!」
「あー。なるほど。ふふ。かわいいあだ名。」と理佐は、横目で私を見ながら笑った。なんか、高校での私を知られるようで、恥ずかしい。
それなのにヒカルは「はい。私も気に入ってます!」なんて言ってる。
「なんで、ヒカルが気にいるの?私は、そうでもない。」
「ふふ。友梨奈、なんでそんなこと言うの。ヒカルちゃん、しょげちゃったじゃん。ごめんね。」
「なんで、理佐が謝るの?」
「教育できてないのは、お姉ちゃんのせいでしょ。ねえ、ヒカルちゃん、お昼ご飯食べた?食べてないなら一緒に食べない?」
「は?理佐なに言ってるの?」
友達なんかじゃないのに。せっかく理佐と初めてのお出かけなのに。ヒカルがついてくるなんて、意味わからない。
ヒカルは私の顔を伺い、言葉をつまらせた。
「でも・・・。」
私は、断固反対と念を送る。
「ヒカルちゃん、友梨奈とお友達なんでしょ?」
「・・・・はい。」
「なら、行こうか。」.
友達って、何をもって友達と言えるのだろうか。