my summer #003(てちりさ)



従姉弟のお姉ちゃん。

私と同い年のアカネさんが帰ってきた。

友梨奈の様子がすこしおかしい。



「アカネちゃん、ひ、久しぶり。」


「こんにちは、友梨奈の新しいお友達?わたし、いとこのアカネです。」


「渡邉理佐です。」



友梨奈とは対照に穏やかな表情で現れた彼女は、私を見るなり言った。



「理佐さん、とても綺麗な方だね。ねえ、友梨奈。」


「そ、そうでもないよ。普通だよ。」



何だろう、この違和感は。



「おい、姉ちゃん。理佐さんは新品の消しゴムじゃねえぞ。」


「は?何の話よ。帰って早々気分悪。」



そう吐き捨てるように言って、その場を後にした。叔母は、そんな様子にため息をつき、私に言った。



「ごめんね。あの子、去年受験失敗しちゃって、今、浪人してるから毎日カリカリしてるのよ。」


「そんな大事な時に伺って、申し訳ないです。」



友梨奈をチラッとみると、背中を丸くしてなぜかこうべをたれている。

2人の間には、何かありそうだ。

それから、ダイスケくんの言った消しゴムの例えは一体何だったのだろう。



お昼には、祖母が茹でてくれたそうめんを食べた。薬味にすりごまとネギ、生姜、それから庭でなっていた青柚という、緑の小粒な柚子を剃って入れた。これが。さっぱりとしてなかなか美味しかった。高級感のあるおそうめんって感じ。今度、うちでもやってみよう。


午後はまず、お母さんのお墓参り。その後に例のひまわり畑に行くことにした。



「友梨奈、帽子かぶって。」


「いいよ。今日は。明日からかぶるから。」


「ダメ。明日からとかないから。今日特に紫外線強いって、ニュースで言ってたでしょ。帽子かぶるまでお家出ないから。あっ日焼け止め塗りなおしてないね。おいで、塗ってあげるから。」



面倒くさいとブーブー文句を垂れながら、友梨奈は私の前で正座をした。元々色白だが、日焼け対策はしたことがないというので、どれくらい白くなるか勝手に楽しんでいた。



「今年は、絶対焼かせないから。」


「あー?」


「あっ目開けちゃダメ。日焼け止め、おめめに入ったら、しばしばしちゃうでしょ。おめめは閉じて、お口も閉じてください。」



友梨奈にこうして何かしてあげるときは、ついつい赤ちゃん言葉で話をしてしまう。そんな様子を見て、お墓参りのセットを持ってきたおばあちゃんが笑って言った。



「理佐ちゃん、兄弟は?1番上のお姉ちゃんかい?」


「あ、いえ。1番下で兄がいます。妹が欲しかったので、何でもしてあげたくなっちゃうんです。それに何にも知らないくせに、1人で何とかしようとしちゃうんで、余計にかまいたくなっちゃうんです。」


「それは嬉しいねえ。友梨奈は昔から友達が多い方じゃないもんで、東京に行ってからばあちゃんと、よう電話しとったんやけど。急に連絡こんくなったもんで、彼氏でもできたんかなと思っとったのよ。友梨奈、優しいお姉ちゃんができてよかったね。アカネと比べたら、うんと素敵なお姉ちゃんやろ?」



友梨奈は当たりを見渡してから小さな声で、うん。と返事をした。



それから、私はおばあちゃんから、線香などお墓参りに必要なものを受け取った。お母さんのお墓に飾ろうと友梨奈は、行きで買ってきた深紅の薔薇の花束を両手で大事そうに抱えた。



「ねえ友梨奈、買う時から思ってたんだけど、薔薇なんてお墓に置いていいの?」


「え?ダメなの?お母さん好きだから、毎年薔薇を飾ってた。」



薔薇のトゲは亡くなった人が生まれかわった時に、怪我をしてしまうからと禁物とされる。



「明確な決まりがあるわけじゃないから、ダメって訳じゃないけど。おばあちゃんが何も言わなかったのならいいんじゃない。結局、世間体の話だから。」


「おばあちゃんは、何も言わなかった。おばさんなんて、勿体無いくらい綺麗だねっていつも喜んでたし。それに私以外にも、大きいバラの花束置いてく人もいるから。あ、ほら今年もある。」



お母さんのお墓には先客により、仏花として深紅の薔薇の花束が添えられていた。見たことがない、その異様な光景に息を呑んだ。



「なにこれ、怖いんだけど。」


「綺麗じゃん。理佐ってもしかして怖がりなの?」


「普通の感覚じゃ怖いよ。もしかして、人が置いたものじゃないとか?」


「まさか?」



恐る恐る墓石に近づくと、薔薇の不可解な点に気づき、花束から一本抜いた。



「ああ良かった。人が置いたものだ。見て、友梨奈。律儀に全部トゲとってる。」


「本当だ。全部とってるのかな?」


「そうなんじゃない。禁物ってわかってる上で飾ってるみたい。」


「来年はトゲとるから今年はゴメン」


それから、友梨奈は水道に置いてある昔懐かしいヤカンに水を汲んでお墓にかけた。タワシでゴシゴシ洗うと友梨奈は言った。



「お母さん、今日は暑いから水が気持ちいいでしょ。かゆいところがあったら言ってね。」



私が先祖の墓参りに行くときは、家族と行くので墓参りの一通りの作法は父に任せている。友梨奈はろうそくとお線香に火をつけ、流れるように手を合わせた。その慣れた手つきに、亡くなって6年という時の長さを感じる。なんだか、胸が締め付けられて、涙が出そうになる。お墓参りは友梨奈にとっては、なんて事ないものなのかもしれないのに。



「おしまい。理佐、ひまわり畑に行こう。」


「ちゃんとお母さんに、私を紹介してくれた?」


「うん。パンツ見せたがりのお姉さんがいるって紹介した。」


「ねえ、やめてよ。」


「あと、その人のおかげで今は毎日楽しいって伝えた。」



さっきまで薔薇で塞がれていた手。

私は、その手を握った。

今は楽しい。言葉に棘がある。




「ねえ、友梨奈。さっきの、アカネさんの話なんだけど。私が新品の消しゴムってどういうこと?」


「私は居候の身分だから角のある新しい消しゴムを使えなかったの。新しい消しゴムをおばあちゃんに買ってもらったら、必ずアカネちゃんが持っていくの。それでアカネちゃんの使い古しの丸いのと交換するの。」


「何それ、シンデレラの世界観じゃん。絶対嫌なんだけど。」


「でもさ、それでお家住まわせてくれるんだもん。安いよね。」


そう言って微笑んだ。

なるほど。叔母とダイスケくんと違って、アカネさんは友梨奈を受け入れることができなかった。家を出た理由も、アカネさんの為だったんだ。



「理佐は、消しゴムじゃないでしょう。」


「私が消しゴムだったとしても、友梨奈に削られまくってるから、アカネさんもいらないと思うよ。もうこんなにちっちゃくなって、丸くなって大変。もう削らないで。」


「じゃあ、けしカス集めて練り消しにするね。」


「やだあ。真っ黒じゃん。」



そうこう馬鹿話しているとこで、オバケが現れたひまわり畑のある場所についた。人気のない、丘のようなところ。こっちこっちと手招きする友梨奈に続いて、雑木林の中に入る。本当にこんなとこにあるのだろうか。見渡す限り、ひまわり畑どころか、一輪もひまわりはみえない。



「おかしいなあ、ここに毎年咲いてるはずなんだけど。見当たらない。」


「こんな林に、ひまわりなんて咲かないよ。日差しも入らたいし、ひまわりは太陽が当たらないと育つの難しいんだよ。」


「うーん。ここら辺、もっとひらけてた気がしたんだけどなあ。」


「場所が違うんじゃない?」


「そうかも!」


ところが、1時間ほど練り歩いても、その日ひまわり畑を見ることはなかった。


私は血だらけのひまわり畑も、オバケも見たくなかったので、その場所にたどり着けなかったことに正直ホッとし胸を撫で下ろした。