my summer #005(てちりさ)

晩ご飯の食卓には、庭で取れた長ナスやピーマンなどの夏野菜が並んでいる。とれたてはやっぱり美味しい。だから、本当は美味しいねって、友梨奈と顔を合わせながら食べたかった。


しかし、私と友梨奈の間には、何故かアカネさんが座っている。


「理佐さん。ごはん、おかわりいる?」

「いや。おかずが美味しくて、食べすぎちゃったからお腹いっぱいです。」

「赤味噌のお味噌汁どう?東京じゃ、珍しいでしょ。」

「あ、でも友梨奈が時々作ってくれるので・・・。」

「何それ、おいしいの?」

「お、おいしいです。野菜がすごく入っていて・・・。」

「じゃあ明日、私も理佐さんのために作ろうかな。」


好かれてるのは嫌ではないんだけど、アカネさんが近づけば近づくほど、明らかに友梨奈のテンションが下がっているのがわかる。その様子を見て、ダイスケくんが声をかけてあげている。ダイスケくん友梨奈のこと、好きなんだね。


「東京の高校はどうなんだ。友達はできたか。」

「うん・・・。理佐ともう1人できた。」

「そうか。よかったな。最近、電話くれないから心配してだんだけど。うまくやってるなら、まあいいか。」


2人の会話が気になるのに、アカネさんが私にずっと話しかけてくるので、よく聞こえない。


「理佐さん、3日間いるんでしょ。1日くらい、私の部屋で寝ない?」

「えー。いや、勉強のお邪魔になると思いますし。」

「もちろん、友梨奈付きでだよ。久しぶりに従姉妹と寝たいじゃん。」

「そ、そうですね。じゃあ、3日間のどこかで・・・。今日は、まあ初日だしあれなんで、あれで、あれかもしれないので辞めときますね。」


適当に口約束をし、その場を切り抜ける。これが引き金にならなきゃいいけど。


「理佐さん、私になんか聞きたいことある?」

「ええー。なんだろう。いっぱいありすぎて、わかんない。あー、友梨奈って昔からショートヘアなんですか。」

「覚えてない。友梨奈以外の話して。」

「えー。マスカラはするタイプですか?」

「そうだな。普段はしないけど、お出かけの時はするかな。」

「へー。そうなんですか。」

「あとは?」

「えー。うーん。えーっと、あっマスカラは下地塗りますか?」


夕食を終えアカネさんに解放されてすぐに、友梨奈は私の膝に飛びついた。何もされてないよね?と言わんばかりの表情で心配そうに見つめる。


「大丈夫だよ。おばあちゃんがスイカ切ってくれるって言ってたから、一緒に食べようか。」

「うん。食べる。あと、アカネちゃんのお部屋で寝ることになったら、理佐の隣は絶対私だから。」

「聞いてたの。」

「全部、聞いてた。」

「ほとんど、意味を為さない会話だったけどね。」と、私は苦笑した。



初日はアカネさんの部屋で寝るのを回避し、友梨奈の「お母さんの部屋」で寝た。ここに住んでいた6年間は、この部屋を自分の部屋として使っていたらしい。
もう「私の部屋」って上書きしてもいいと思うけど、彼女は断固として、この部屋を「お母さんの部屋」と呼んでいる。
確かに、友梨奈の持ち物ではなさそうなものがほとんどで、ノートや文房具には「ユウカ」と書かれていた。


「お母さんの名前、ユウカって言うんだ。」


壁には、あせた懐かしいアイドルのポスターが貼られていて、この部屋だけ時が止まっているようだった。


「友梨奈、あのアイドル名前なんだっけ。」

「わからない。お母さんのだから。」

「はずさないんだ。」

「うん・・・。」


和室に、2枚の布団を引き、川の字で寝た。
開けた窓から、夏の虫の音が聞こえる。
今日は友梨奈にとって散々な1日だった、明日は彼女にとっていいことがありますように。そう心の中で唱えながら、頭を撫でた。