my summer #007(てちりさ)


帰ってすぐ、お母さんの好きなアルバムを聞いて欲しいと部屋に上がった。棚の上にあったCDプレーヤーをカーペットに下ろして蓋をあける。


「あれ?ない。入れっぱなしにしてたんだけど。」

プレーヤーの中には、CDは入っていなかった。
CDラックの中を見渡しても、それだけ見つからなかった。ダイスケ君や叔母さん、おばあちゃんに聞いても知らないという。
姉が知ってるかもと、ダイスケ君は友梨奈の代わりにアカネさんに尋ねてくれた。


「姉ちゃん。友梨奈の母ちゃんが大事にしてたCDどこにあるか知ってる?CDプレーヤーの中に入ってたらしいんだけど見つからんらしい。」

「あ、ごめん。そのCD捨てちゃったかも。」


アカネさんは隠すとなく、自分の悪行を報告した。申し訳なさなんて、微塵も感じない。


「だって、CD入れっぱなしにして出て行ったでしょ。CDプレーヤー使おうと思ったら中に入ってたから。だから、捨てた。」

「ひでえなやりすぎだろ。姉ちゃん、もう人間やめちまえよ。」

「うるさいな。買えばいいんでしょ。買えば!なんて、タイトルのCDか教えてくれたら買いにいくけど。どうなの?友梨奈。」


アカネさんはニヤリと、片端の口角を上げて気味悪く微笑んだ。

はあ。この人って人は・・・。


「それは・・・洋楽で・・・タイトルも英語だったから、読めなかった。」

「じゃあ、明日一緒に買いに行こうよ。ま、店内中探してたら、あっという間に1日過ぎちゃうかもしれないけど。」


友梨奈は歯を食いしばって、逃げるようにその場を離れた。


シンデレラやないかい。


いじめってやつは、ここまで劇的だと面白くて寧ろ愛らしくも思えてくる。
一日中、好きでもない相手の顔を思い浮かべて、今度はどんな悪戯をしようかって考えるんだろうか。


友梨奈は再び、母親の部屋に戻ると毛布を頭からかぶり、壁に向かって大きなため息をついた。
アカネさんの友梨奈への悪行は日常的に行われていて、いちいち気にしないようにしているようだが、さすがに今回の一件に関してはダメージがきてるみたい。



「ゆーりなっ。よしよし。また、いじめられて、かわいそうに。」

「お母さんの大切な曲。もう二度と聞けない。」


お母さんが好きだったかもしれないというアルバム。さみしいときは、それを聞いて過ごしたと言う。
なんとか、探してあげたいけど・・・。
洋楽というヒントだけで、どうしたらわかるだろうか。CDラックからジャンルがみえてくると思ったが、邦楽しか入っていなかった。


「スピッツに、スピードに、スマップか・・・。わかった!共通点はス!だから、友梨奈のお母さんが好きなアーティストは、スティービーワンダーでしょ。」

「ばか。」


くだらない冗談も、今は心をえぐるだけか・・・。


「ごめんごめん。洋楽、あんまり詳しくないけど。どんな曲だったか覚えてる?」

「ワン、ツー、スリー、フォーから始まるやつ。」


それだけだと、あまりにヒントがなさすぎる。
歌詞で調べようかと思ったけど、洋楽じゃ無理かもしれない。


「もうちょっと歌えない?」

「えー。音痴かもしれないからわかるかな?レッミーテルユー・・・Let me tell you how it will be 
There's one for you nineteen for meってやつ。」


友梨奈は鼻歌まじりで曲を歌ったのだが、意外と英語がネイティヴで驚いた。
しかも、聞いたことある・・・。なんだっけな。


「’Cos I’m the Taxman Yeah, I’m the Taxmanってやつ」

「嘘!私、わかったかも!それ、ビートルズのタックスマンじゃない?」

「ビートルズだったら私だってわかるよ。ヘイジュードの人でしょ。」

「まあ、有名なのはそれだけど。曲はそれだけじゃないから。でも、タックスマンとは、またマイナーな。他は?」

「2曲目はね、絶望的な感じの曲。」

「ほう。歌ってみて」

「ちょっと待って。雰囲気大事だから、あの曲。」


そう言って友梨奈は、立ち上がり毛布を肩にかけた。体をかがめて、ゆらゆら左右に揺れている。

一体、なにが始まるというのか。


「Ah, look at all the lonely people
(ああ 見てごらん 孤独な人々だよ)」


今度は、ワンフレーズでわかった。
これも、ビートルズの曲。「エリナー・リグビー」

それにしても・・・。


「Eleanor Rigby, died in the church and was buried along with her name Nobody came
(エリナー・リグビー 教会で死んで名前とともに葬られた 誰も来やしない)」



何かに取り付かれたかのように、焦点の合わない虚な目で友梨奈は歌っている。私が、今いるのは日本の田舎なのだろうか。そんな、錯覚さえする。

そして、私はこれからイギリス リバプールの教会で、神父と老婆の悲劇を目撃するのだった。