my summer #009(てちりさ)
夕食時、私たちは早々と食卓の席についた。
友梨奈はイエローサブマリンを鼻歌で歌いながら、敵船の襲来に構えている。
敵が間に割って入らないように、私の腕を掴んで陣地を確保している。
「そんなにひっぱったら、腕ちぎれちゃう。」
「ちぎれないで。」
「じゃあ、離して。」
「ヤダ。」
「お腹すいちゃった」っと現れたアカネさんは、イエローサブマリンを鼻歌で歌っている友梨奈を見て、復活が早すぎると思っているのか不思議な顔をしている。
間に入ることができず仕方がなく、私の向かいに座ると友梨奈はようやく腕を離してくれた。
これで、落ち着いてご飯が食べられる。
「あ、ダイスケ。お母さんのアルバムわかったよ。理佐がね。ふふ。当ててくれた。携帯でダウンロードしたから、いつでも聴ける。」
「すげえじゃん!よかったな!俺、生まれ変わったら理佐さんの弟になりてえなあ。」
「理佐の妹は私がなるから、ダイスケはダメ。それか、私の弟で生まれてきて。」
「いや、友梨奈は俺の妹な。」
そんな、食卓のやりとりに、アカネさんの怒りがふつふつと沸いてくるのがよく分かる。
「ちょっと。食事中に、うるさいんだけど。あんたたちは、生まれ変わっても私のかわいい弟と従姉妹だから!ねえ友梨奈。」
「う、うん。」
アカネさんは、面白いほど絵に描いたような稀代のヒールだ。そう思ったらなんだか、かわいく見えてきた。
夕食を終え、お風呂から上がると部屋に向かっている途中で、アカネさんに呼び止められてしまった。
「理佐さん、お風呂入ったの?」
「は、はい。いいお湯でした。」
厄介なことを言い出す前に、湯冷めするとかなんとか言って、早々退散しなければ。
「理佐さん、私のこと悪役だと思ってるでしょ。」
「え、いえ、そんな稀代のヒールなんて思ってません!」
あっ口が滑った。
「最低・・・。本当は、さみしいだけなのに。」
「え。どうしたんですか。」
突然、弱音を吐くのでついつい、質問で返してしまった。だけど、アカネさんは、答え合わせをしてくれなかった。
「ねえ、理佐さんは友梨奈のこと好き?」
「好きですけど。」
「どういう好き?」
「どういうって・・・。なんでしょう。友達として、妹として、まあどちらもですかね。」
「かわいいとか思ってるんでしょ?」
「それは、そうです。」
「キスしたい?」
「はあ?冗談はやめて下さい。じゃあ、おやすみなさい。」
私はこれ以上話すと、また変に口を滑らせてしまいそうて、すぐに立ち去ろうとした。だが、それを阻止するかの如く、アカネさんは話を続けた。
「とっくに聞いてるんでしょ?なんで友梨奈が家を出たのか?」
「いや、聞いてないです。」
「でも、わかったでしょ?」
「いや、わかりません。」
「じゃあ、知りたい?知りたいなら、私の部屋に来て。教えてあげるから。」
何故かなんて聞かなくても2日間、ここにいたら自ずとわかってくる。あなたが原因。それ以外に何があると言うのだ。
「もう、夜も遅いので。」
「私の部屋に来てくれなきゃ。明日、友梨奈を潰す。」
「なに言ってるの?」
アカネさんは、イカれてる。友梨奈に対してこれから何をしたいかなんて、私は悪人ではないからわからない。先手を打つことのできない私は、彼女に従うことしかできなかった。
部屋に入るとアイスティーを入れてくれた。昨日は、すぐにここを出てきたので気づかなかったが、ピンクの家具で統一した、とてもかわいらしい部屋だった。
薔薇のようなアロマも炊いてあり、何もかも無精な従姉妹とは似ても似つかない。
だが、それは友梨奈と交流がないと言う確固たる証拠とも言えるだろう。
「なんで、友梨奈がこの家を出たか。理佐さんが思ってる通り、私が嫉妬してあの子をいじめたからだよ。」
「そうですか。」
私の隣に腰掛けたアカネさんは、アイスティーの氷をストローで回しながら、その経緯を語った。
「あの容姿だから友梨奈は生まれたときから、ずっとお姫様のように扱われてた。私以外、みんなあの子に夢中だった。ただ、幼い頃は父親の仕事が忙しくて、ここへはお盆と年末にくるくらいで、私は数日我慢すればよかった。」
友梨奈の過去を少しでも知りたくて、ここへやってきたのに、まさかこんな形で知ることになるとは。
悪役の考えは、到底わかりようもない。
「友梨奈が障害を持っていると聞いたとき、私は可哀想だとは思わなった。それ以外は、全部持っているから。それくらいあってもいいと思った。」
「それくらいって・・・。」
「友梨奈のお母さんが亡くなって、おばあちゃんの家に住むようになって、地獄の生活が始まったの。毎日、ゆりちゃん、ゆりちゃん、ゆりちゃん、ゆりちゃんって!みんなウザかったんだよ・・・だから、いじめてやった。」
話が進むごとに、アカネさんの声のボリュームは大きくなっていった。
「家では視界に入ると蹴飛ばして暴言を吐いてやった。学校では教科書を破って、学校の机にチョークでイタズラしてやった。それを毎日繰り返してた。あの子に与えられたストレスは、あの子に返してやった。」
確かに、叔母さんや弟は友梨奈に過保護すぎる。アカネさんが嫉妬する理由はよくわかる。ただ自分の居場所がなくなったのは、そうして自分から逃げたからじゃないだろうか。それに、だからと言って人を傷つけていい理由にはならない。
私は同情なんてしない。
「教えてくれてありがとうございます。友梨奈が心配してると思うので行きますね。」
「友梨奈、友梨奈、友梨奈ってみんな友梨奈ばっか!バカじゃないの!あんたの人生でしょ!この世は友梨奈が中心に動いてる?違うでしょ!」
驚いた。感情むき出しにして怒るようなタイプじゃないと思っていたのに。肩で息をし、今は冷静を装えていない。
アカネさんはガクッと首から頭を下げ、暫くしてからアイスティーを机に置いた。
「それなのに・・・。」
アカネさんは、消え入りそうな声で言った。
様子がおかしい。時計の針が大きく聞こえる。
「それなのに、アイツ、私にいじめられてるって絶対に言わないんだよね。なんで、そんな子をいじめてたんだろうって今は思う。」
「私って、最低だよね。」
そう言って、私の方を向いた。
しかし、その意図がわからなかった。話を自己完結させ、都合の良いところで切り上げた。何のために私をこの部屋に呼び出したのか、真意がわからなかった。
「アカネさん。最低か最低じゃないかで言えば、無論最低です。あのさ、何が言いたくて、私にそんな話をしたんですか?昨日も今日も悪態ついてさ、反省してるなら、止めればいいじゃん。申し訳ない気持ちがあるから、いじめてもいいとかないからね。何?同情して欲しいわけ?申し訳ないけど、私もあなたの家族と同じで友梨奈のことが大好きなの。こうやって呼びつけられたって、私はあなたの味方をするつもりはないから。」
「味方になってほしいなんて思ってない!私はただ。私はただ、、、」
「ただ?」
「理佐さんに友梨奈をとられたくないだけ。」
「ああ、そうですか。私に友梨奈を…え?今、なんて?」
「だから、その友梨奈をとられたくないの。理佐さんだけじゃないよ、誰にも。誰にもとられたくない。」
今度は何を言い出すのかと思ったら、友梨奈をとられたくない?
何言ってるの、この人。