栗栖のケータイに短い文章を送信した。
少し経って、いかにもダルそうに栗栖がきた。
「タバコを吸わない俺を何故ここに呼び出す?!」
合いも変わらず、栗栖はすでに切れ気味だ。
そんな栗栖にいつもの調子で俺も切りかえす。
「俺がここにいたから」
「っていうか、そのイカツイルックスでタバコと酒が駄目って相変わらずウケルんだよなー」
真砂が聞く。
「仕事は?」
栗栖が
「狩野たちがやってる。今のとこはトラブルないし、今日のメンツはいいからな」
メンツがいいとは、仕事ができるやつが揃ってるという意味だ。
…当分任せといても大丈夫だろう…
栗栖貴央とは、この家電量販店がグランドオープンした時からの同期で気心しれた仲だ。
過激な発言とヤクザばりの格好で誤解を受けやすいが
少しいれば、情に脆く、面倒見がいいのがすぐわかる。
仕事中の呼び出しにも何だかんだ文句を言いながらでも来てくれる。
「で?」
俺のタバコの煙にイラツキながら
栗栖が本題を聞いてくる。
「うーん、前っちどう思う?」
俺はあえて、漠然といった。
「前島?どうって普通じゃね?」
「あーだよな。俺もそう思う」
…成立しない回答をしてしまった…
しかし、すぐに栗栖が言ってきた。
「でも、普通じやないと思ったから、お前はこんなとこで俺に聞いてんじゃないのか?」
…ぐっ…
栗栖は変態エロ魔人のくせして
まれにするどい。
…こうなったら、栗栖にぶっちゃけた方が、いらん墓穴を掘るはめにはならない…
…変にごまかすといい方向へはいかないな…
「わからん。わからんからお前に聞いてんの」
「長い付き合いなんだから、空気読めよ」
投げやりな俺の言葉に、冷静に栗栖が言ってくる。
「少なくとも、前島のことは俺にはフラグが立たなかった」
「でも、お前にはフラグが立った。それが何フラグかは知らんが?」
切れない態度で話す栗栖が親身さを語っている。
かと思うと、次の瞬間には、いつも栗栖だった。
…こいつの親身時間って短いな…
「俺が分かるのは、お前がらしくないことに、
少しイラついてることくらかなー
しかも最近吸いすぎ!」
…シケモク並の気の短さの栗栖のくせに…
「イラつきに関してはお前だけには言われたくない」
栗栖が時計をみて
「もう現場戻るわー」
スタスタと去っていった。
去り際に
お前も早々に戻れよとばかり、早足で栗栖が倉庫に向かっていった。
…吸いすぎか…
栗栖が言った言葉を反復させる。
確かに増えた気はする。
この、些細な不愉快な感情を
一方的に前島のせいにするのは、大人としても上司としても
身勝手すぎるのは理解できる。
前島に非はないのだから。
ただ、この感情がどこから発生しているかを知れば
自分の理由無き不快感が解き明かせる気がした。
それと同時に
自分の中で、そんな感情がまだ存在していることに
驚いた。
知りたい。
探求したい。
解き明かしたい。
そんな面倒くさいことをしたい歳でもタイプでもないのに…
とりあえず…
これ以上ここのベンチにいても
栗栖の怒鳴り声が響いてきそうなので
重い腰を上げ、タバコの煙を消した。