時間切れエッセイ | 横須賀どぶ板通り巡り人

横須賀どぶ板通り巡り人

横須賀在住の主がどぶ板通りの飲み屋をメインにどぶ板の魅力を発信するサイド

応募作品として


エッセイを書いたが、時間切れで投稿できず…


もったいないので、ブログ投稿します。


テーマは、記憶に残っている風景です。


「青い芝生」


目を閉じると、家の前のあの青い芝生の庭が広がっている。


縁側に座る自分が見上げる空はとても青く、雲もない。


庭で白い洗濯物を干す母が私に気がつき振り返る。


笑顔でおはようと一言。


わたしは心傷つき、学校に行けないで、家にいる。


それでも、母はいつもの笑顔で、


いつもの生活リズムで


わたしだけが、いつもと違う。


どんなに自分が変わってしまっても


普通の枠からはみ出してしまっても


青い芝生も、白い洗濯物も、母の笑顔も変わらない。


そんな些細な事に救われていることを、誰も知らない。


今はこの青い芝生を越えて出ることは出来ない。


家族以外に、おはようと言うことも出来ない。


でも、いつか…


閉じきったわたしの心の片隅にある希望の気持ち。


いつか、この芝生を飛び越え、


好きな場所から、空を見上げ、


大きな声で、何かを叫びたい。


本当の自分なんて、もう忘れてしまったけれど


どこかに在る本来の自分を探して


自分を取り戻したい。


それが、わたしの夢。


こんなわたしに父が言っていた言葉を思い出す。


「誰も恨むな。自分も恨むな。


恨みの先には何もない。


社会や常識や他人を変える事は今は出来ない。


だが自分が変わることは出来る。」


言われた瞬間は酷い父だ、と思ったが


今はその言葉が分かる。


自分が心を閉ざした理由を


社会や自分を追いやった人間のせいにして


恨み、憎しんだところで、前には進めない。


それが事実だとしても、自分のせいではなくとも


自分が変わりたい、前に進みたいなら


何かを憎んで、心を黒くしてはならない。


ただ、その場から逃げてもいい。


休んでもいい。


ただ、心を失くしてはいけない。


心を黒く染めてはいけない。


黒い心で強くなっても意味はない。


自分を痛めつけた人々と同じになってしまう。


誰も恨まず、強くなる。


わたしには未来が在ると思いたいから。


今は生きていていいのか分からない存在だけど


未来や夢という単語を感じたなら、きっと生きていいと思う。


そして、いつか、わたしは歩き出す。


本当の自分の道を。


今はそんな希望を捨てない自分を消したくない。




あれから、20年。


もう古くなった芝生は青々としていない。


縁側の木も色あせている。


ただ、わたしは自分を取り戻している。


決して楽な時間ではなかったが


わたしは、芝生を飛び越えた。


飛び越えた上で、今も縁側から芝生を眺めている。


痛みを伴わない強さに意味はない。


現実や社会は、あいも変わらず辛いもので


心折れそうな時も多々あるけれど


あの、青い芝生を見つめていた時間と心痛みながら、がむしゃらにもがいた自分がいたから


今が在ると思う。