本当にしとしと。
そういう感じの雨でした。
今朝早くに母からショートメールが入っていた。
実家の猫ケンが息を引き取ったという。
覚悟はしていたけれど、心のどこかで奇跡を信じていた。
実感がない。
今度、実家に帰るとケンがいないのか・・・。
想像ができない。
ケン、享年20歳。
人間でいうと、100歳。
大往生です。
最後の3年はずっとは一緒にいられなかったけど、
ケンと過ごした20年は、事件あり、笑いあり、そんな時間でした。
ケンの話をしたいと思います。
20年前の夏、実家の庭をうろうろしている猫がいた。
特に注意をすることもなく、当時は庭で飼っている犬リキがいたので、
庭のことはリキに任せていた。
ある夜、夜も夜、真夜中に、庭から声がする。
か細い「ミューミュー」という声。
当時わたしは大学を卒業し、9月にイギリスに短期留学することが決まっていて、
いわばフリーターの身。
夜更かし上等!という感じ。
妹は、仕事を家に持ち帰って作業中。
そんな妹に声をかけ、一緒に庭に出た。
声の元を探すと、どうも塀の消火栓のために築かれている穴のところから。
中が見えない。
すかさずわたしは妹に「手を入れてみて」と命令。
妹はしぶしぶ手を伸ばした。
そして次の瞬間、「おねえちゃん、こんなん出てきた」と右手の手のひらを見せた。
そこには、手のひらにちょこんと乗った子猫がいた。
こんなに小さい子猫、見たことない。
あわてて家に入った。
二人で、どうしよう?とサワサワしていると、母が起きてきた。
「あのうろうろしていた猫が産んだんやなぁ」
「忘れられたんかなぁ」
「人間のにおいが付いたら、もう連れて行ってもらえないかも…」
3人で会議をしていると、決定権を持つ母が一言。
「明日、ケンちゃんを病院に連れて行こう」
・・・ケンちゃん?もう名前をつけたの?
「ケンちゃんって、漢字はどう書くの?」
『健』という字を思い出しながら質問すると、
「犬!」と母は答えた。
それにはちょっと度肝を抜かれました。
冗談でもないトーンだったので、そのままにしておいた。
後日、なぜ『犬』なのかを聞くと、
この猫のことを可愛くなりすぎて、買っている犬リキのことを忘れないようにとのこと。
その後付けの理由もいぶかしむわたしです。
手乗り猫だったケン(犬と書くとややこしいですよね)を病院に連れいてくと、
ケンは、まだ開いてなかった目を、グッと開けられた。
生後1週間くらいといわれ、この子を飼うんだったらと、
診察代を無料にしてくれて、猫用のミルクまでもらった。
犬しか飼ってこなかった我が家は、大騒ぎ。
哺乳瓶でミルクを飲ませる。
それはそれは愛おしかった。
ニャーニャーじゃなくミューミュー。
それまで、犬一家だった我が家。
わたしは、その年になるまで猫の良さを全然知らず、
「犬派?猫派?」の愚問にも「犬派!」と間髪入れず言っていた。
その価値観がひっくり返った。
ケンちゃんのことが気になって気になって。
毎日が楽しかった。
ケンはすくすく大きくなり、家族の人気者。
のびのび生きていたケン。
ある日、朝起きると母が「ケンがあんたのマクラに頭を乗せて、一緒に寝てたよ」と言った。
あぁ、なんてかわいいんだろう。
想像するだけでかわいい。
まだ500mlのペットボトルくらいの大きさだったケン。
可愛がって可愛がって、それこそ猫かわいがりした。
そしてあっという間に、わたしがイギリスに旅立つ日が来た。
スーツケースにいろいろ入れて用意をしているとケンが寄ってきて、
蓋の部分に入って、すぐに寝た。
そこを離れない。
「ケンは分かっているな」と思った。
別れが惜しかったけど、わたしは旅立ち、半年後に帰ってきた。
「ただいま~」
玄関を開けると、妹が猫を抱いて立っていた。
なんて大きい猫なんでしょう!?
「はい、おねえちゃん、ケンちゃん」と重量のある猫を手渡され、あまりの重さに落としてしまった。
ケンは心外そうに怒っていた。
その後、コタツに入るわたしの膝に乗ってきた。
姿こそ変わったものの、やっぱりケンはかわいい。
そうしみじみ思うのでした。
その後のケンは、我が家の帝王になっていった。
よちよち歩きの姪っ子の背中で爪とぎをして大泣きさせ、危険人物(猫?)扱いになり、
3階建ての立派な小屋を導入。
姪っ子と、なぜか足を狙われる妹のだんなさんが来るときは、そこに入れるという約束になった。
友達にその話をすると「トラでも飼ってるの?」と言われた。
似てるけど、トラ猫です・・・。
去勢をしていないため、季節によって不機嫌になり、
父が腕を噛まれて病院に行き、ケンと険悪になったり、
わたしのセーターに爪が引っ掛かり、ケンがパニックを起こし、
わたしの手を噛み、離さないということがあったり。
その時は、ケンがそのまま硬直してしまって、どうしようもない。
わたしもパニック。
「おかあさ~ん」と夜中に母を叩き起こした。
すると母は「ギャー」と言って、救急車を呼んだ。
わたしの足元に血だまりが出来ていたから。
本当にビックリした。
救急車で運ばれ、診察を受けながら、ふと時計を見た。
12月24日になっていた。
一生涯、忘れられないクリスマスイブです。
ちっちゃかったケン、父から小顔だと褒められていたケン、
時折、動物を飼うことは命がけであることを教えてくれたケン、
コーヒーの粉とバターをこよなく愛したグルメなケン、
父の亡きあとは、母を守ってくれていたケン、
最後の最後まで、生きようとしたケン。
わたしは、ケンのおかげで猫という生き物が大好きになったよ。
長い間、一緒にいてくれて楽しかった。
うちに来てくれてありがとう。
今頃は、天国で先に亡くなった犬のヤマトにびびられたり、
父の腕を執拗に狙ったりしてるのかな。
想像すると笑える。
ケンはそんな猫です。
