文章力対決、ということでお互いに創作したものを競い合っています。勝つか負けるか、云々よりもこれを読んでいただいた方に楽しんでいただければと思います。
お相手の方の創作はこちら。今回のテーマはハロウィンです。
では、お話が始まります。お楽しみ下さい。
※話中にリンクがあります。過去に創ったものです。こちらもお楽しみいただければ!
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シャカ、シャカ、シャカ・・・。
振ると小気味良い音がする。あたしの名は田橋瑞希。2017年10月31日。9歳の誕生日を迎える。
シャカ、シャカ、シャカ・・・。
ああ、なんかこの音好きだな。夕方前まで遊んでいたマキちゃんからもらったお菓子だ。
フリスク、ってお菓子らしい。一つ食べたけど変な味だった。なんでも、食べるとハッスルするお菓子らしくて、昔そーゆーCMが流行ったんだとか。味は嫌いだけど、この箱を振って鳴らす音は好きだ。
シャカ、シャカ、シャカ・・・。
・・・でも最近、これに似た音を聞いた気がする・・・。どこだっけ・・・。そんな風なことを考えながら、あたしは家に着いた。
玄関のドアを開けた。すると、
「ぎゃあああああ!回復!回復!ハーブハーブ!」
「どこだよーーー!どこにいるんだよー!」
「ゾンビがあああああ!」
・・・近所めーわくだろ、MY両親。最近、ウチの両親は二人でゲームをすることがマイブームらしい。今は数年前に発売されたゾンビゲームで遊んでいるらしい。ったく、何がそんなに面白いんだか。
シャカ、シャカ、シャカ・・・。
・・・思い出した。これだ。ゲームの最中で、やたらと鳴るフリスク。体力を回復するためにフリスクを食べるんだとか。死にそうなクセにこんなお菓子で直るのがワケワカンネ。
・・・ちょっと気になったんで、1つだけフリスクを食べてみる。やっぱり不味い。
「あれ?この子、どーしたの?」
ゲームに興じる両親が騒ぐ背後で、ぽつんと座る女の子がいた。2つか3つくらいだろうか?
自分の身長くらいの大きさのクマさんのぬいぐるみを側に置いて、お絵かき帳にクレヨンで絵を描いている。
「ああ、あたしの妹の子供よ。友達の結婚式に出るからってウチで一晩、預かることにしたの。ユミちゃんよ、従妹になるわね。仲良くしてやってね。って掴まれたー!」
ゲーム画面を見たままでかるーく紹介するウチの母。オーイ、いいのか?
「助けにいくぞー!・・・静かで大人しい子でさぁ。一人で遊ぶのが好きなのか、懐かなくてさ。瑞希も帰ってきたし、遊んでやってくれないか?・・・ってギャ!乱入してきたー!」
ただでさえグロい映像満載のゲームを、小学生の娘の前で平然としてて、なおかつさらに年下の従妹の前でやってる両親・・・。ナニ考えてんだ・・・。
「さっ、アホ両親はほっといて。ユミちゃん、こんばんはー」
あたしは挨拶がてら、手を伸ばす。握手のつもりで伸ばしてみた。ユミちゃんはあたしの顔をじっと見たまま、クレヨンを置いてすっと手を伸ばしてくる。
ち・・・ちっちぇえ・・・。
やばい。ピンポン玉よりちょっと大きいくらいの手が、あたしの手と手の平を合わせてる。かわえーのぅ!
よーし!今日一晩、お姉さんが遊んであげるぞー!
と、気合を入れてたら両親が肩をガックリと落とした。
TV画面はなんだか赤い血文字で英語が出てる。ゲームオーバーの画面らしい。
「あーあ!やられちまった!」「乱入されるとはねー。動きがハンパないわー」
ゲーム機の電源を切って、いそいそと夕飯の準備に取り掛かるママ。キッチンで野菜を取り出してるママの側に置いてある物に、あたしは気づく。
「また・・・作ったの?」
「え・・・だって恒例じゃない?これ」
あたしにとって因縁深い、かぼちゃの彫り物がデンとあたしのほうを見ていた。ママの手作りだ。ジャックオーランタンと言うらしい。幼いあたしにトラウマを植え付けたシロモノだ。
まぁ、フツー無いと思う。
自分の母親に包丁持って襲われたハロウィンの思い出なんて。
ユミちゃんはトコトコと近づいて、ジャックの顔としげしげと見つめている。興味を持ったらしい。
・・・仕方無い。あたしにとっては因縁深いけど、ここはユミちゃんに付き合うことにしよう。
ジャックの彫り物は、被り物として使えるように、底に穴が空いていた。このへんもあの時と同じかよ。
ユミちゃんの頭に被せて見る。ちょっと大きすぎてふらついたけど、気に入ったらしい。ジャックの目から覗かせる、ユミちゃんの目がなんとも可愛らしい。
ハロウィンの夜。これまでの経験から、両親が何かしらの攻撃を仕掛けてくると思いきや、今のところ何も起こらない。ユミちゃんがいるから、それに気を使っているんだろうか。例年に比べてかなり大人しい夜になった。
「ねーちゃ、ねーちゃ」
ユミちゃんがあたしのことを呼んでくれる。言葉を覚えてくれたらしい。なんだか本当に妹みたいだ。一人っ子だから、姉妹がいたらなー、とか思ってたんだけど、一夜限りだけど実現してくれたらしい。なんとも嬉しいハロウィンだ。
そしてあたしは、ついに決心をする。
「あたし、妹と寝るから!」
きょとんとする両親。いつも三人で寝る部屋ではなく、自分の部屋で布団を敷いていた。
「妹と二人で寝るんだから!邪魔しないで!」
「はぁ・・・」「オイ、瑞希・・・」
ユミちゃんの手を握って、あたしは両親に反抗する。ここは絶対に譲るもんか。
「仲が良いってのはいいんだけど・・・どうする?」
「・・・ま、いいんじゃない?瑞希も小学生なんだし。でも、ユミちゃんに何かあったらすぐに呼びなさいよ」
「わかってるってば!」
あたしは自室のドアを閉めて両親を追い出す。・・・さぁ、これで邪魔者はいない!
「ユミちゃん、あたしと一緒に寝よーねー」
ユミちゃんはここまで泣きもせず、きゃっきゃと笑っている。本当に大人しい子。妹だったらいいのになー。
ユミちゃんの小っちゃな体を腕で抱いて、あたしはいつの間にか、眠りに就いていた。
翌朝―。
あたしは、自分がどこにいるのか分からずにいた。ああそうだ、ここは自分の部屋。昨日はユミちゃんと二人で寝たんだっけ。ユミちゃんはあたしの腕の中で眠っている。
「ユミちゃーん、おっはよー!」
あたしが元気な声でユミちゃんを起こそうとする。だが、ユミちゃんの感触は幼児のそれではなく、もっとゴツゴツとしたものだった。
「・・・・・・なに・・・これ・・・」
あたしの腕の中にいるのはユミちゃんではなかった。腕の中にいるのは、忌まわしきジャックの顔だった。
あたしはぎょっとする。そして触れている場所の事実に驚愕する。ジャックには肩がある。首がある。
ユミちゃんはどこ、とあたしは慌てて手を伸ばす。すると、自分の手に異変が起きていることに気づく。
「え・・・?」
あたしの手。紛れもない、あたしの腕から手首を通じて伸びているあたしの手。そのあたしの手の平は、真っ赤に真っ赤に染まっていた。
あたしの頭は一気に血の気が引いた。慌ててペタペタとジャックの頭を触れているうちに、あたしは気づく。ジャックの後頭部が、真っ赤なのだ。ベタベタとした感触が気味悪く、あたしの手の平からは嫌悪感しか感じない。
ジャックから生えた身体を探る。ゴワゴワとしてて、とてもユミちゃんとは思えなかった。
そして身体を探っているうちに、ジャックの顔が”ある反応”を見せた。
あたしは悲鳴を上げた。11月1日。9歳になって迎えた朝。だがちっとも嬉しくない。ユミちゃんがジャックになって、で、そのジャックが怪我してて、そしてその怪我があたしのせいで・・・って自分でも訳が分からなかった。
ドタドタと足音を鳴らして両親を呼ぶ。
「パパ!ママ!」
リビングで見つけた二人は・・・。
「やべぇ!サナギサナギ!」「ごっついの出てきたー!無理ー!」
「おまえら・・・」
娘とその妹が、一大事だというのに、朝までゲームやってんじゃねぇ!両親の首根っ子を無理やり掴んで自室に引っ張り込む。我ながらここまで腕力があるとは驚きだった。
「ユミちゃんが・・・ユミちゃんが・・・」
あたしは事情を話す。ジャックがどうとか真っ赤がどうとか、自分でも何喋ってるのか訳が分からない。両親も話が飲み込めてないようだったが、異変が起きたことはわかってもらえた。
「・・・よくわからないけど瑞希。ユミちゃんに何か起きたって言うのね?」
コクコクとうなづくあたし。だが慌てるあたしとは反対に、落ち着いた素振りでママは布団を指差す。
「でもユミちゃん、そこで寝てるわよ?」
「え・・・」
あたしは布団を捲る。そこには、ジャックの背中で眠る、ユミちゃんがそこにいた。ちょうどおんぶしてもらっているような格好でスヤスヤと眠っている。
「ど・・・どゆこと?」
「それはこっちが知りたいわよ」
二人の話では、一晩中ゲームをやっていたらしく、目の前の光景には一切関わっていない。
パパがジャックの身体を、ユミちゃんからそっと引き離して、見回す。ポン、っとジャックの面を外すと、そこにはクマのぬいぐるみの顔が現れた。
「ん?ベタついてんな」
パパがジャックの頭の異変に気づき、真っ赤な後頭部をじっと見る。
「あ。これクレヨンだ」
見ると、ユミちゃんのそばで赤いクレヨンが転がっていた。
「瑞希ー。イタズラはママの役目なんだからやっちゃだめよー」
半ば苦笑いを浮かべるママに、あたしは真っ向から反対する。
「あたしじゃない!んなことするわけないじゃない!それに・・・」「それに?」
「目が光ったのよ。ジャックの目の奥から」「んー?」
パパがぬいぐるみの頭をポンポンといじってみる。身体をところどころ探っていると、仕掛けに気づく。
「あ、これ。お腹をいじると目が光るみたい」
「なかなか手が込んでるわね。最近のオモチャ・・・」
ここで妹が目を覚ます。あたしの一夜限りの妹は、パパがそっと差し出したクマのぬいぐるみを抱きかかえ、ジャックの頭をかぶせた。キャッキャッと喜ぶ光景に、あたしはなんとなくホッとしてしまった。
この愛らしい顔を浮かべている妹が、姉とクマさんと一緒に一夜を過ごしたかっただけなのか、それともママのイタズラ心の血が、叔母さんを通じて受け継いだ結果が今朝の出来事なのか、真相は誰にも分からない。
ママがぽつりとつぶやく。
「この幼さでなかなかやるわね。こりゃ将来楽しみだわ」