愛に飢えたよい子のみんな!僕はみんなのオトモ、ペパローニにゃ!
僕のご主人は巨悪のハンター。契約金10万の金で僕は雇われて、日々過酷なオトモを強いられてるにゃ。契約解除には契約金10万をそっくり返すしかないにゃ。外道ハンターの元でくじけないながらも頑張る僕は今、島流しの刑で仲間の大介と一緒なのにゃ。
目指すは、「人生奪回」なのにゃ!・・・いや、「猫生」か。
「あっ!ペパさん、飛行船が来ましたよ!もしかしてご主人様が・・・」
「なーにを言ってるにゃ。あんにゃろうが迎えに来るような酔狂なことしてきたら、この手製のこやし玉を顔面にぶつけてやるにゃ!」
そう言って僕はこやし玉作成に精を出していた。僕を島流しにした張本人の顔面に、こやし玉をぶつける為に。
数分後、僕は納得のできるこやし玉を作成出来た。通常使うものよりも、サイズは大きい。このサイズの大きさが僕の恨みの大きさを表していると言ってもいい。
「あ・・・ああ!ペパさん!」
「どうしたにゃ?僕はまだまだこやし玉を量産しなきゃいけないにゃ。あんにゃろうに復讐するためにはこれだけじゃ足りないにゃ!」
そう言って僕はこやし玉作成を再開する。
「ペパさん!ペパさん!」
しつこく呼びかけてくる大介に少しイラッと感じたが、構わず無視する。僕は作成に忙しいのだ。
「よう、お前ら、迎えにきたぞ」
何気ない呼びかけの声。僕は聞き逃さなかった。・・・そう、僕をこんなところに島流しにした張本人。僕が復讐すべき相手。僕が猫生を取り戻さなければならない相手。
「ようペパ、元気にしてたか」
爽やかそうに演技ぶった声で僕に話しかけようとしやがるターゲット。
僕はあえて振り向かずに返事をする。
「ああ、孤島の生活は快適だったにゃ。・・・ご主人は?」
「こっちも相変わらずだな」
そう言いながら足音がこちらに近づいてくる。僕は恨みのこもった特大のこやし玉を手に取る。標的が射程に入るまで、引きつけるのだ。
「そうかにゃ。僕もご主人に会えなくて寂しかったにゃ」
「ほう、そうかそうか」
標的の足音が僕のすぐ後ろまで近づいたことを知らせる。僕はすかさず振り向き様に特大のこやし玉を振りかぶる。
「こ・・・ここで会ったが百年目にゃあああ!!!くらええぇぇぇぇ!!」
げしっ。
僕の顔面は真っ暗になる。この大きさ、この硬さ、この感触・・・。間違いなく・・・僕のご主人様・・・。
「・・・んなこったろーと思ったよ。だって臭いで丸分かりじゃねーか」
大介の介抱で僕は目が覚めた。差し出された鏡で僕の顔を見ると、足跡がくっきりとスタンプされている。
「じゃ、帰るぞ。もう孤島生活もだいぶエンジョイしただろ」
「・・・どうもあやしいにゃ。僕の知ってるご主人は何か裏があって迎えにきたんじゃないのかにゃ?」
「・・・人聞きの悪いこと言うなよ。お前、俺のことそんな風に思ってたのか?」
「そりゃ長い付き合いだからにゃ」
僕は頬杖を立ててしかめっ面をする。この男のやることにゃ、どうせロクなことを考えてないに違いない。
「・・・お前らの顔が恋しくなって迎えにきただけだ。他に他意はないぜ?」
「どーもおかしいにゃ。絶対裏があるにゃ」
「・・・やれやれだ。お前らにしたって、こんな孤島にずっといるわけにもいかないだろうが。さっさと帰るぞ」
「ふーん・・・」
僕は目を細めてご主人の様子を窺う。どうも怪しいにゃ。僕の口髭がピンと張ってそう告げているにゃ。これはネコの勘だにゃ。まぁどちらにしても、帰らないと始まらないことには仕方ない。僕には選択肢がないのだ。・・・でも、それはそれとして。
ご主人が身支度を整えようと僕から視線を逸らしたとたん―。
ぺしっ。
特大のこやし玉は失敗したけれど、ストックは十分に持ってるにゃ。にっくきご主人の顔面に、こやしがべったりと張り付いている。ようやく、ようやく―僕の満願が叶ったにゃ!
「・・・不意打ちするたぁな。お前もよく成長したじゃねえかボケ猫」
「・・・ご主人に鍛えられたからにゃ」
僕はニヤリとほくそ笑む。標的の無様な―無様なツラが拝めたので僕はもう満足していた。
べしゃっ。
不意に僕の足跡スタンプされた顔面にこやしが降りかかる。
「ハンターなめんなよ。手持ちに無いと思ってたのかボケ」
「・・・こ、ここで恨みを晴らしてやるにゃああああああ!」
「おとといきやがれ、ボケ猫ぉぉぉぉ!!」
こやし玉を投げあう、男と猫一匹。その傍らで、お茶を啜りながらため息を吐く大介。
湯のみをくるくると回しながら、二人の様子をじっと見つめながら時計の針の進みを見る。こやし玉合戦が終わったのは、小一時間のことだった。
飛行船乗り場。ようやく帰れると思ったのだが、係員の女性に呼び止められる。
「お客様方。大変申し訳ありませんが、お客様方はご搭乗になれません」
「え?」
「理由は・・・わかりますよね?」
体を洗って見かけを直しても、その臭いはなかなか取れない。係員の背後にはハンマーを持った警備員がブンブンと素振りをしながら出番を待っている。
言い争いを始める男と猫一匹。その傍らで、座布団に座ってお茶を啜る大介。ため息を吐いて天を仰ぎ見る。孤島の太陽は、燦々と照らして平和そのものだった。
「僕たちは、いつ帰れるんでしょうか・・・」
警備員のハンマーの一撃で外に追い出される男と猫一匹。追い出された彼らの視界の中で、飛行船は飛び去っていく。
結局、彼らが帰還出来たのは翌日のことだった。