「ふんっ!」
「ぐへっ!」
「にゃーっ!」
ぼーんっ!(爆発)
「はぁっ!」
「どわっ!」
「にゃーっ!」
ぼーんっ!(爆発)
「にゃーっ!」
ぼーんっ!(爆発)
「にゃーっ!」
ぼーんっ!(爆発)
「・・・・」
「にゃーっ!」
ぼーんっ!(爆発)
「・・・おい」
「にゃーっ!」
ぼーんっ!(爆発)
・・・ぶちっ。
やあっ。僕の名前はペパローニ。気さくで優しいハンターのご主人と一緒にクエストをしてるオトモアイルーにゃ!
ああ、とても優しいご主人様にゃ!お給料もたくさん支払ってもらえて、おいしいお肉やお魚も毎日食べれて、日当たりのいいところでひなたぼっこも出来るにゃ!ここはとてもいいところにゃ!とてもいいところ・・・いいと・・・こ・・・ろ・・・。
僕がご主人に蹴飛ばされて目覚めたのは、気絶して5分後のことだった。現実とかけ離れ過ぎた夢を見ていたらしい。
「・・・お前、どさくさにまぎれて、俺に爆弾ぶつけてただろ」
「何、言ってるにゃ!濡れ衣にゃ!それを言うなら弟さんだって・・・」
ご主人は弟さんのほうを見る。弟さんの足元には討伐対象のドスファンゴが倒れていた。肩に抱えられた、権太っとい(ごんぶっとい)ハンマーで殴られたのだ、気絶して当たり前だろう。先ほどドスファンゴに殴りかかるときに、接近していたご主人にも弟さんのハンマーがヒットしていた光景があったような気がする。そう、気がする。
「すまん、振った先にお前がいたんだ」
弟さんはしれっとした顔で返事をする。兄弟だからわかるのだろうか、こういうときの弟さんは嘘は言わない正直な性格らしい。
「・・・」
兄のご主人様は半分納得いかないようだが、ご主人のほうも何度も吹っ飛ばしてるので「おあいこ」で矛先を収めた。ドスファンゴは気絶してるのにご主人は気絶しない。これハンターの七不思議。・・・が、僕には矛を収める気は無いらしい。
「お前、わざとだろ」
「たまたま、投げた先にご主人がいたにゃ!
「ほう、そうか。ヤツが倒れた後も投げ続けていたよな?」
「それはご主人の気のせいにゃ!僕はまだ息があると思ったから投げ続けたにゃ!」
「・・・なるほど。お前はそう言うわけか。なら証拠を見せよう」
ご主人はびしっと地面を指差す。森林の茂る中で、黒々とした禿げた地面がむき出しになっている。この地面がなぜ出来たのか、この場に居た者ならすぐにわかることだろう。
「あの獲物の位置と爆弾の爆発位置がまるっきり違うのはどういうわけだ?納得の行く説明をしてもらおーか」
「・・・ひ、ひどいにゃ!僕を信じてもらえないにゃんて・・・」
最近、僕はアイルーとしての立場を利用する術を学んだ。ユクモ村の人間にはこういう目をすると食べ物を分けてもらえたり、お買い物するとオマケがもらえたりするのだ。
目を潤ませて見つめる僕のまなざし攻撃は、残念ながら・・・というより予想通り、ご主人には全く通じなかった。
「どさくさにまぎれて俺を亡き者にしようとはな・・・お前もずいぶん賢く成長したもんだな」
「・・・ちっ、バレちまっちゃぁしょうがねぇ!」
僕は最近買ってもらったオトモ用のユクモカサをピンと跳ね上げ、ビシィッ!と指差す。
「世はごまかせても、オトモの目はごまかせねぇ!きやがれ、そこの悪大名!このオトモピッケルで亡き者に・・・」
べしっ。
僕の台詞は言い終わる前に、ご主人の足の裏で踏みつけられて中断した。
「ご主人!これはどういうことにゃ!」
僕はガーグァの牽く台車に乗せられていた。丸太にロープで縛られた状態で。
「孤島でゆっくり頭を冷やして来い。久しぶりの休暇を与えてやる。島流しの刑だ」
「にゃんですって!僕がいなくてオトモはどうするにゃ!」
「大介に頑張ってもらうから安心しろ。それから、お前の実家にも仕送りはしといたから当分は大丈夫だ。帰ってくるまでお前の給料は全カットだがな」
パンパンと手を鳴らしてガーグァに合図をするご主人。合図に従ってガーグァは命じられた行き先のままに、台車を牽引していく。
ガラガラと回る車輪の音。音は徐々に大きくなり、それと共にご主人が視界から小さくなる。
「ち、ちくしょう!こんなことして、タダで済むと思うにゃ!」
僕の捨て台詞はご主人に伝わっただろうか。
疲れが溜まっていたのか、いつのまにか移動中に眠っていたらしい。そのまま荷車ごと飛行船に乗り、行き先の孤島へ辿り着いたことに気づいたのは夕方のことだった。
「ペパさん、ペパさん!」
僕の体を揺すって起こしたのは、大介だった。
「あれ?なんでお前、ここにいるにゃ?ご主人のオトモじゃなかったにゃ?」
大介は答えに迷ったらしく、一瞬躊躇したような素振りを見せて、こう答える。
「ペパさんを放っておけるわけないじゃないですか!」
僕は独り孤島に島流しにされたという哀しい事実を思い返し、こうしてついてきた大介に感極まった。
「おおう!大介~~~~!」
僕は大介に抱きつこうとしたが大介はスルリとかわす。
「・・・オホン、それはさておき。ペパさん、一応これだけは用意しておきました。何があるかわからないですから」
そうして荷車に積まれた、布でくるまれた荷物を取り出す。布を取り払うと、僕の装備と当面の食料、消耗品が入っていた。
「す、すごいにゃ!ご主人のボックスから持ち出したのかにゃ?」
大介は口元を押さえて少し間を空けたが、うなづいて答える。
「よーし!せっかく孤島に辿り着いたにゃ!もうあの腐れハンターなんか頭から忘れて、エンジョイするにゃ!」
僕はガッツポーズを決める。大介のほうにも決めろと目で促す。
「お、おー・・・!」
僕はガーグァをキャンプになりそうな場所に移動させるため、運転席に座る。大介は背後の荷車で夕焼けの太陽に向かってぼつりとつぶやく。
「これで、いいんですよね。ご主人・・・」
そして僕たち二人は、孤島の中を探索する。恐ろしい化け物たちの攻撃を避け、薬草を摘み回復薬を調合する。弾薬を節約しなければ生き残れない。物資は底を尽きつつあった。そこで僕たちを待ち受けていたのは、暴君と呼ばれたモンスターや、コールドスリープから目覚めた女王蟻のモンスターだった。僕たちは戦った。孤島から脱出するために・・・!
・・・なぁんて話は無くて、すこぶるエンジョイしていたにゃ。主に釣りしたりキノコ取ったり、たまーにファンゴに追いかけられたりもしたけど。
「ご主人様、何してるんでしょうかねぇ・・・」
「さぁ、今頃僕たちの助けが必要になって迎えに来てるんじゃないのかにゃ・・・」
一方、その頃・・・。
「あ、ハンターさん!クエストの受注ですか?久しぶりですね」
ユクモ温泉会場。その場所で、ご主人こと主役(?)のハンターは、これから最高難易度のハントに挑むところであった。それは、それまで倒してきたモンスターたちなど足元にも及ばない超難度のハント・・・。
すなわち、ガールハント。
下位クエストの受付嬢。そう。話しかけるとちょっと慌てたような仕草をしたり、前のめりでうれしそうに応対したり、上位クエストの受注を受けるとチラッチラッとこちらを見たりする、あの受付嬢だ。ご主人こと主役(?)のハンターにとって、好みのタイプだったのだ。
(ああ、焦るな焦るな。落ち着け。邪魔なオトモや弟はいない。乙女を射止めることなど容易いんじゃないのか?さぁ頑張れ、俺!)
自身にそう言い聞かせて受付嬢に話しかける。
「ああ、はい」
「そうですねぇ・・・狩猟クエストばかりでだいぶお疲れでしょう?久しぶりに、採集クエストなんてどうですか?孤島でノンビリと釣りをしたり日光浴なんていいと思いますけど」
「あ、ああ、それで」
(ち、ちがうだろ俺!誘うんじゃなかったのかよ!!)
「ところで・・・最近ご一緒してるハンターさんとか、ペパローニちゃんはどうしたんですか?」
「あ、ああ・・・どっか別のクエストに行ってるんじゃないかなぁ・・・。ペパはちょっと休暇で・・・」
「そうなんですかぁ。ここだけの話ですけど、ハンターさんとペパちゃん、いいコンビですよね。二人が勇んでクエストに挑む姿、カッコイイんですよ」
「・・・!」
「ハンターさんたちなら、珍しいものとかも採取したりするんですよね?きらきら光る石とか珍しいお魚さんとか。あと珍しい飾りとか」
「・・・!!そうですね、このあたりじゃ見かけないものも取れたりしますよ」
「じゃあ、ペパちゃんが戻ってきたら、何か見せてもらえませんか?私、ずっとここで働いてるから、外に出歩くことが少なくて」
「・・・!!!分かりました!任せてくださいっ!今回は孤島でのんびりすることにします」
「では、受注ですね。手続きはこちらで済ませておきますから」
「どうも」
・・・そう告げてハンターはクエスト出発口へ向かう。
「そう、のんびりと・・・ね」
ぼそりとつぶやいたハンターは、クエスト出発口をくぐると飛行船へ一直線に猛進した。
「待ってろよあのボケ猫ぉぉぉぉぉおおおおお!!」