【文章力対決】史上初のプロデビュー | AQUOSアニキの言いたい放題

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徒然なるままに俺自身のネタや、政治・社会ニュースへの辛口コメント、最近観た映画の感想とかを書き綴ります。

たまーにブログのデザイン変更とか自作ブログパーツを出したりします。「ムホホ~♪」

※この話は創作であり、実話を少しアレンジしたものです。登場人物の名前とか団体の名前は実際のものとは一切関係無い、ただのフィクションです。


「今日の先発、お前だから」

投手コーチにいきなり言われて、俺は驚いた。

「え、今日っすか?」

「驚くのも無理は無いがな。だが、今日活躍したらスポーツ紙一面トップは間違いない。勝って一面飾って来い」


確かに、ここで勝てば一面は間違いない。俺の名前はデカデカと翌日のトップ一面に飾られるだろう。なぜなら―。

今日の試合、マジック1、リーグ優勝がかかったいわゆる「優勝決定戦」なのだから。


今日、俺は今年初めて、というよりもプロ野球一軍で初先発、すなわちデビュー戦となる。しかし俺の記憶の中で、リーグ優勝が決まる試合で、新人がプロ初先発というのは記憶にない。おそらく、これはプロ野球史上初の出来事なのだ。


俺は心底ビビりながらトイレの個室に篭ってイメージした。デビュー戦が優勝決定戦とか、監督はどういうつもりなのか。入団してヒヨコの俺が監督に向かって聞けるわけがない。ただでさえ監督は番記者に対してもほとんどコメントしないからだ。ただし、あの監督が積み重ねてきた実績は本物で、在籍8年でリーグ4回、日本一1回を達成。初就任の年では、補強はほぼ無しでいきなりリーグ優勝させた。選手を見る眼力というか、指揮能力は本物だと言わざるを得ない。


俺なんかの手が届く人じゃないのに、真意を聞くのもはばかられる気がした。とりあえず、ここは真意を聞くというよりも、与えられた先発という仕事をきっちりこなすことを考えるべきだろう。俺が先発して優勝した、というのはそれだけでも十分なアピールになるし、ファンだって一気に付く。


ちなみに相手はよりによってリーグ2位。マジック1でほぼ優勝は手中にあるとはいえ、相手だって必死に噛み付いてくるのは間違いない。つまり俺が前向きに考えるなら、負けてもともと、勝てば官軍くらいに考えればいい。そう、試合さえ作ればいいのだ。投球回5回表まで投げて1~2失点なら先発としては御の字だ。





そして試合。今更ながら思えば、「5回1~2失点であればそれでいい。負けて元々」、だって?とんでもない。


8回無失点無四球ってどゆことよ?


しかも打線の援護で3点。ヤバイヤバイ。俺、勝っちゃうんじゃね?

ベンチの中で集中を切らさないようにタオルで顔を拭くフリをしながら考える。


トップ一面間違いなし。しかも胴上げ投手。やべぇ。

ファン何人増えるんだ?お立ち台とかあんのかな?何しゃべればいいの?


いきなり寒気がする。あまりにも未知の領域過ぎてヤバイ。抑え投手に交代したほうがいいんじゃないか?と思った矢先、


「おい。ここまできたんだから、お前がシメてこい」


・・・。監督から直々に言われたよ・・・。

「はいっ!」


ここで交代したら男がすたるだろ!よし!やってやるぜ!一面飾ってやる!!





甲高い音が俺の耳をつんざく。俺の渾身の直球は、空高く昇り、そしてバックスクリーンへと飛び込んでいった。


満塁ホームラン。


逆転された・・・。勝利投手から一気に下ろされた格好だ。

決して気が抜けたわけじゃない。これまで通りの投球をしてきたつもりだった。

3連続ヒットを打たれ、満塁になったとき、タイムがかかり、内野の先輩から檄を飛ばされた。


「お前の持ち味は何だ?それを生かせ!」


強い口調で真剣な檄を飛ばされて、俺は渾身の直球を投げた。その直球は真芯で捉えられ、今バックスクリーンへ飛び込んでいった。


もう交代か。そう思ってベンチを見る。監督は座ったままだ。コーチも腕を組んで見つめているだけ。


何もない?何もなし?一気に孤独になったような気がした。何もないってことはつまり、

「最後まで投げろってこと・・・?」


結局9回の表、アウトを3つ取るまでにさらに失点を重ね、計7失点。プロ初勝利初優勝どころか、プロの洗礼を浴びせられた格好だ。


プロの道は険しい。球筋を見極められたのか、クセを見抜かれたのか、俺が投げる球がことごとく打たれた。


サヨナラの可能性がある9回裏も、三者凡退に終わり、ゲームセット。


ベンチにとぼとぼと帰っていく俺に、コーチから声がかかる。

「ナイスピッチだった。・・・もう、逃げ出したいか?」


長い一日だった。デビュー戦が優勝がかかった一戦。自分でも驚くような投球内容。そして痛烈なプロの洗礼。何から話していいかわからないけど、一言だけ言った。


「次は勝ちます」


その返事を聞いて、コーチは俺の胸を拳で軽く叩いた。