【私立・獄門学園】第三話・たいいくのじかん | AQUOSアニキの言いたい放題

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獄門学園・第一話はこちら

第二話はこちら


元々、単発のつもりで書いた学園コメディネタでしたが、文章力対決の対戦相手の方が第二話を描いてくれたので、こちらで第三話を書くことにしました。


では、お楽しみください。







命の保障はしない。それが理事長室に呼び出され、理事長から告げられた言葉だった。


特殊部隊養成学校だぁ?親父がその学校をシメていただぁ?信じられないことばかりだったが、男に二言はねぇ!相手がなんだろうと俺はこの学校をシメる。


例え今、初等教育部のガキどもにすら遠く及ばないとしてもだ。


キーンコーンカーンコーン。


授業が始まる。次の授業は体育だ。今までの高校なら俺は体育なんぞ出るつもりはなかった。出てもめんどくせーし、適当な奴に代返させとけばよかったからだ。


しかし・・・今は事情が違う。このクラスの奴らをシメるには、今までのやり方じゃダメなのは明白だった。こいつらと俺は次元が違う。だからこそ、コイツらの力を知り、コイツらを超え、ゆくゆくはシメるためにも、体育の授業というのはうってつけだった。


中学までは、俺だってダントツの成績だった。体力測定だってダントツ。短距離もマラソンだって余裕で一番だった。だから多少なりともコイツらにはヒケはとらないはずだ。


体操着に着替え、グラウンドに集まる。当然のことながら、男子と女子は別々だ。だから今グラウンドには男子しかいない。


「おう、集まったかお前ら!」

俺ら男子生徒の前に現れた体育教師は・・・あまりにもベタベタないでたちだった。

赤いライン入りのジャージ。なぜか下駄。バリカンで刈った四角い髪型。無精ヒゲ。なぜか妙に長い、前を向いたモミアゲ。そして竹刀。熱血体育教師の王道を行くスタイルをそのまま実現化したオッサンだった。この体育教師の名前は車田義美(くるまだよしみ)らしい。車田・・・どっかの熱血漫画の作者みたいな名前だ。


「よーしお前ら、まずは体操だ。はじめろ」

普通の体操だった。アキレス腱を伸ばしたり、伸脚体操をしたり、ストレッチ運動を中心としたどこの学校でもやるありきたりな体操だ。今までがトンデモない先公の授業ばっかりだったから、これは意外だった。進学校だから、体育だけは普通ってか・・・?

俺は少しばかり落胆した。普通過ぎる。こいつらの力を知る一番の機会だってのに、こんなショボい授業をさせられるとは。


「次はランニングだ。トラック2周してこい」

この獄門学園のグラウンドのトラックはせいぜい500メートル程度。つまり距離としてはたいしたことない。ジョギングペースでダラダラと走る。夏日でクソ暑かったが、この程度ならまだまだ平気だ。普通過ぎる。普通すぎてなんだか逆に不安になる。


俺は走りながらグラウンドを見渡す。体育教師が居ない。どこに行きやがった?


すると―。


体育教師はコンクリートの壁に顔を近づけていた。何も無い壁に見える。不審に思い、俺はコンクリートの向こう側をちらとみる。そこには―。


そこは桃源郷。プールではしゃぐ女子たち。水着を着た女子たちが、プールの水しぶきを浴びながら、はしゃいでいたのだ。


そこには、クラスの優等生・神楽さやかをはじめとして、クラスの女子たちがキャッキャと戯れ、まさに楽園だった。女子の体育教師、篠田みどりは大人の魅力たっぷりに、プール授業には似つかわしくないビキニ姿で監視台に座って生徒たちを見つめていた。


対して俺達はムサい体育教師と何の面白みもない体操と味気ないランニングを命じられている。そして、そのムサい体育教師は、壁越しに楽園を覗いている。

俺はなんだかムカついた。この対比、この扱い、そしてこの車田に。


「センセイ」

俺はワザと大きな声で背後から車田を呼びつける。車田は慌てた様子でこちらに向き直る。

「ランニング終わりました。次はどうするんです?」

「う、うーむ・・・」

「ねぇセンセイ?もし次の予定決まってないんなら・・・」

俺はニヤついた表情で車田に提案する。

「俺に、いい提案があるんですが」


「"だるまさんがころんだ"だぁ?」

男子達がざわめく。なんで高校生にもなってそんなもんやらにゃならんのだ、と抗議の声が聞こえる。

俺は両手の平を下に向け、上下に振って落ち着けと制する。

「お前ら、わからんのか?この状況を」

俺はあごをしゃくって壁のほうを指す。

そこにはコンクリートの壁。そして崩れかけた穴。穴の向こう側は・・・女子のプール。


そこで男子達が気づく。俺達の楽園がすぐそこにあることを。

「・・・知立。俺、なんだか"だるまさんがころんだ"やりたくなってきた」

「俺もだ。なんとなく、小学生の頃に立ち戻ってみたくなった」

「お前らもか。・・・ハイレベルな勝負になりそうじゃねぇか」


さっきまで抗議していた男子達の目がギラギラしたものに変わる。その目つきはもはや

のほほんとしたやる気のない体育の授業のそれではなかった。楽園を覗き見ようと鬼にならんとする、まさに野獣たちの目となっていた。


「いいですよね、センセイ?」

ようやく車田が俺の意図に気づく。壁の件は黙認してやるから、俺らにも「分け前」をよこせ、と。そして、車田はそれを許可する代わりに、俺も参加させろと言い出した。


「じゃんけんぽん!あいこでしょ!あいこでしょ!あいこで・・・」

なかなか鬼が決まらない。そりゃそうだ。16人プラス1人だからじゃんけんではなかなか決まらない。しかしこうしている間にも体育の授業の時間は消費されていく。すなわち、楽園の時間も過ぎてしまう。結局、トーナメント形式のじゃんけんで決めることとなった。


「っっしゃああああああああ!!!」

俺が最初の鬼となった。神も俺を見放してはいなかった。初等教育部のガキにも敵わない俺だとしても、運だけは人類平等らしい。


さっそく、俺はスタートラインを描く。距離は200メートル。普通のだるまさんがころんだの距離よりも長すぎると言っていい距離だ。だがこいつらの運動能力はこれまでの授業で明らかだ。俺が十分覗く時間を稼ぐのももちろんだが、こいつらの運動能力の牽制をする意味もあった。


俺は鬼の配置につく。もちろん、壁の穴だ。

「むふふ・・・」そこは楽園だった。


グラビア並みの水着たちがところせましとはしゃいでいるのだ。男としてこれを見逃すなどありえない。

「スタート!」車田が叫ぶ。

このゲームは按配が難しい。長く見続けるためにはセリフをワザと長くしなければならない。しかし、長すぎれば後ろの野獣どもはすぐに背後に迫るだろう。逆に短すぎても本来の目的を失ってしまうのだ。

そして、本来のだるまさんがころんだと違うのはルールの点でも違う。タッチしたヤツがスタートラインまで戻るか、鬼がタッチした奴をタッチしかえすかで決まる。スタートラインまで戻られればそいつが鬼。タッチしかえせば鬼は継続、ということになる。


タッチを察知して、すばやくそいつを捕らえられるかが俺の決め手となる。


「だるまさんがころんだ!」俺は早口で叫ぶ。こいつらは並みの奴らじゃない。ハンパではないのだ。セリフにして1秒。俺は背後振り向く。これくらいならさすがに奴らは近づいては―。


「・・・」


・・・え?距離にしておよそ2メートルくらい。そのあたりまで、15人プラス1人が全員迫っていた。


おかしくないか?200メートルあったのに、1秒でこの距離って、ありえない。ありえるはずがない。


冷や汗をかきながら俺は「だるま・・・」のところでタッチされた。

猛然とダッシュする俺。しかしこいつらには追いつけなかった。あっという間にラインに到達されてしまう。

しかし、俺はこのとき気づく。スタートラインが、妙に近いことに。距離にしてわずか10メートル。


「クックック・・・」車田は俺を見てうすら笑いを浮かべる。ケタケタと笑うそのツラで分かった。スタートラインは、コイツの仕業だと。


「・・・なかなかしたたかじゃねぇか、車田・・・」俺は不敵に笑う。こういう争いなら俺の土俵だ。やってやる。


次に鬼になったのは柏田卓(かしわだすぐる)。細身で小柄ですばしっこそうなヤツだった。もちろん、ダーツを素手で受け止め、ご他聞にもれず成績も優秀なヤツだ。


そして柏田自身もわかっていた。わずか10メートル。この区間で鬼の時間を作るのは難しい。だから柏田は俊足を生かしてラインを消す。そして100メートルほど距離を離してラインを作る。

そして車田も含めて俺ら男子生徒を見つめたまま壁に下がる。俺たちはスタートラインの向こう側だ。俺らの位置を確認した後、柏田は壁のほうを向く。

そして俺は驚愕の事態を目にする。


他の生徒と、そして車田は、柏田が目を離した瞬間に、猛然とダッシュしていた。しかも足音を立てずに、だ。


これがさっき1秒もかからずに2メートルまで近づいた理由だった。

・・・なんて奴らだ。こいつらの女子プールに対する執念もそうだったが、技能の凄さを見せられた。


そして俺は、柏田を見て・・・「プッ」と笑ってしまう。身長が・・・足りないのだ。

身長180センチ超の車田や178センチの俺なら楽々穴を覗けるが、155センチの柏田にはまったく見えない。すっかり意気消沈した柏田。


すぐさま車田に鬼を奪われたことは言うまでも無い。


そして車田の野郎は、200メートル超のスタートラインを作り、しかもそのスタートライン付近に水をまきやがった。これでは足音が聞こえてしまう。

奴は完璧な対策を練った。


「くっくっく、篠田センセイ!あなたの姿、目に灼きつけるぜええええええ!!」


車田が壁に目を向ける。ぐひひひひと笑い、勝利を確信していた。


「・・・・・・」


壁の向こうには、篠田みどりが額に血管を浮き立たせてニヤニヤと笑っていた。

「何してるんですか?車田センセイ?」

冷や汗をたらしながら車田が答える。

「あ、いや、壁の修理をしないとな~なんて・・・」

目を細めて睨む篠田。もはや弁解は通用しない。


そして背後の生徒たちを見る車田。そこには・・・。


「えっほえっほ」

「ファイオッ!ファイオッ!」

「全国行くぞぉ!おめぇら!!」

「おう!!」


トラックを走る続ける男子生徒一同。何事もなかったかのように俺たちは走る。

そう、何も無かった。何も起こらなかったのだ・・・。


「てぇぇぇめぇぇぇぇらぁぁぁぁ!」

猛然と走り出す車田。竹刀を片手に男子生徒を次々となぎ倒す様は、まさに「車田無双」だった。

俺も含めて男子生徒一同、グラウンドに骸となって倒れた。


翌日。例の壁の穴は、篠田みどりの監視の下、車田自身の手でコンクリートで埋められた・・・。