【私立・獄門学園】第四話 格闘の天才児 | AQUOSアニキの言いたい放題

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徒然なるままに俺自身のネタや、政治・社会ニュースへの辛口コメント、最近観た映画の感想とかを書き綴ります。

たまーにブログのデザイン変更とか自作ブログパーツを出したりします。「ムホホ~♪」

少しずつだが、俺も学園生活に慣れてきた。一週間が経った。

『Hey!Kego!』

あの登校初日で度肝を抜かれた刈谷のダーツもなんとか受け止めることが出来るようになった。

ブスッ。

…もっとも、素手ではなくノートを盾にして、だが。奴のダーツは正確に弾丸のごとく眉間を狙って来るので遮蔽物さえあれば簡単に受け止められる。…おかげでノートは穴だらけだが。
受け止めるのはなんとかなったが、問題は投げ返すほうだ。
これがなかなか狙い通りに飛ばない。よって、俺のところにダーツが飛ぶと―。
ガタッガタタッ。

俺と刈谷を結ぶ直線上の生徒は左右に避難する。巻き添えはゴメンだからか。気に入らないが仕方ない。とんでもない生徒ばかりだが、性格のほうは好意的で俺も悪い気はしない。

俺の中で少しずつ、初日のシメてやろうって気持ちは薄らいでいた。

そんな生徒たちの中でも、とりわけ異色なのはあの優等生・神楽さやかだった。文武両道、成績もトップクラス。おそらくダーツの受け止め方の反応を見る限り、格闘のセンスも半端ないだろう。女と喧嘩する趣味はねえが。


そしてもう一人、異色なのがいる。そいつが、今俺の後ろにいる・・・。


「はいはいはーい!ケーゴ君!ごきげんいかが?」


俺の後ろにいる・・・。


「ねぇねぇケーゴ君!学校をシメたときの心境、聞かせて?」


俺の後ろにくっついている・・・。


「ケーゴ君ケーゴ君!やっぱり不良は、スキンヘッドとかリーゼントとか、パンチパーマなの?メンチビームとか出すの?」


俺の・・・後ろに・・・。


「だぁぁぁ!うっせええええええ!!」

俺は後ろにぴったりとくっついて来た紺野 忍(こんの しのぶ)を振り放す。

たまらず忍は少し後ろに跳ね飛ばされる。


「な、なにするんですか!報道の自由の侵害です!不当な規制です!!」

忍は両拳を胸の前に作り、メガネ越しに目をうるうるさせて俺を見る。


「不当なのはそっちだろが!昨日、今日と何やってんだテメー!」

「これはれっきとした取材です!転入生に対してみなさんがどんなプロフィールの持ち主なのか気になるのは当然じゃないですか!」


忍はマイクのつもりなのか、ボールペンの先を俺の顔に向ける。


「んなテメーで勝手に調べりゃいーだろ。話すことは無い。それじゃーな」

「待ってくださいよぉ」


「ずいぶんと手が早いのね、知立君?登校初日で喧嘩を売って、そして一週間で女子に手を出すなんてねぇ?」

神楽さやかが目を細めて俺のほうに話しかける。


「知らねーよ!コイツが勝手にくっついてきてるだけだ!」

「あらそう?それはそうと・・・」


さやかが俺の耳元に近づいてこそっと囁く。

「あんまりクラスの風紀を乱さないでくれる?さもないと・・・”だるまさん”の件、クラスの女子にバラすわよ?早々にクラスの女子の嫌われ者になると・・・卒業まで後々苦労するわよ?」


俺はギクリと顔を歪める。あの件は、篠田だけが知っていて、車田だけがやったことになっていたはず・・・。バレていやがったのか。


「まぁ、神楽さんとも仲がよろしいんですね?ケーゴ君?二人はどんな仲?実は二人は登下校を共にするような仲だったりとか―」

すかさず忍が話しかけてくる。


「あーもううっせぇ!」俺はたまらず教室を出る。屋上へ行ってタバコでも吸わなきゃやってられねぇ。


と、廊下へ出ると―。


「どうだいジェシー?今度の日曜日、オレのホームパーティに来ないか?」

「あーもうっ!しつっこいわねクリス!」


隣の1年3組からも似たようなシチュエーションで出てくる男女。二人とも金髪の白人だった。カタコトではない、流暢な日本語だ。日本人から見て外国の男女は、かっこ良く見えてしまうことが多いがこの二人もかなりの美男美女だった。男のほうは筋骨隆々で、露出した腕の筋肉が引き締まって見えた。女のほうはグラビアにでも載せたいような肢体を見せていた。しかし女のほうは、男のほうをどうにかして撒こうとしている風だった。俺と忍の立場のようなものか。


しかし・・・。俺は女のほうを見る。何食ったら、あんな風になるんだ?


先日の”プールの楽園”も確かに素晴らしかったが、このジェシーと呼ばれた女の発育具合もなかなか・・・うーむ。


・・・と、そんな俺の視線に気づいたのか、女のほうが近づいてくる。

「悪いわねクリス。あたしね、この転入生と付き合ってるの」


「はぁ?」俺はたまらずうろたえる。


「あたしはジェシカ。よろしくね、ケーゴ」

ジェシカは俺の左腕にからみついてくる。腕にくっついている、こ、これは・・・。


「ちょ、ちょっとまてぇぇぇい!!」

たまらずクリスが俺とジェシカに抗議する。


「付き合ってるわけねーだろ!今、自己紹介しただろ!」

「なんのことぉ?そんなことないわよねぇ、ケーゴ」

嘘も方便と言うが、巻き込まれた俺はたまったものじゃない。しかし・・・腕にからみつくものの魅力に俺は負けた。


「そ、そうだ!てめぇが何者か知らねぇが、とっとと失せやがれってんだ!」


クリスは額にスジを浮かべて俺に怒りの矛先を向ける。指の関節をボキボキと鳴らして俺に近づいてくる。


「ケーゴ君、彼は危険です!ボクシング部員です!いくら知立君でも・・・」

忍が俺の袖を引っ張り、逃げるように急かす。


しかし俺は忍の制止を振り切り、同じように指の関節を鳴らしながらクリスに向かう。

「ほぉぉ。それはいいことを聞いたぜ。俺がどんだけ喧嘩に場数踏んでると思ってんだ?ボクシングどころか柔道も空手やってる野郎も相手にしてきたんだ。この学校のボクシング部がどんな実力なのか、見せてもらおうじゃねぇ!」

俺はクリスにメンチを切る。クリスは俺の視線に気づき、クックックと歪ませる。


「ジェシーは強い女が好きなんだ。弱い男なんてふさわしくない。悪いが俺は一度も負けたことがないんだ」

「ほほぉ、奇遇だな。俺も喧嘩じゃ負けたことは無いんだぜ?お前が初めて負ける相手はこの俺だってことか」


「転校初日で腰を抜かしてたのはどこの誰だっけ」さやかがぼそっとつぶやく。

「ありゃノーカウントだ」俺は即答する。


俺の返事を無視してさやかが続ける。

「言っておくわ。彼はあなたじゃ無理。彼のセンスはおそらく・・・私よりも上よ。圧倒的過ぎて相手にもならないわ」

「へぇ?じゃ、お前の予想は外れだな」


手のひらを隔てたくらいの距離で、お互いの顔が接近する。お互いに眉間にしわを寄せて相手を睨みつける。ここで視線を逸らせばその時点で負け。それが男の世界だ。


「手加減はしねぇぞ、ジャップ」

「そのツラ整形させてやんよ、メリケン野郎」


俺はすかさずパンチを繰り出す。場数は踏んでる。ボクシングをやってるやつに大振りのパンチはまず当たらない。小さく細かく刻んで、隙在らばボディに叩き込んでやる。

しかしクリスのディフェンスは違った。なんと目をつぶったまま、俺のパンチをかいくぐっているのだ。パンチの風圧?気配?心眼?とにかくヤツは目をつぶっている。しかし全て紙一重でかわしているのだ。


「これが・・・神技ディフェンスだ」

クリスが俺の胸に拳をトンと当てる。


「そしてこれが・・・!!!」

クリスの目が光る。拳を振りかぶり右ストレートを叩き込む!


「ローリング・イナズマー!!」

端から見ればたった1発のストレートに見えただろう。しかし、撃たれた衝撃で分かる。

ヤツは、俺の胸に3発。右ストレートを連続で叩き込んだ。


ま・・・まるで見えねぇ。俺は膝をガクガクと震わせながら姿勢を保つ。


「ほほう、まだ倒れないか。さっさと決着をつけてやる!」

クリスは後ろに飛び跳ね、そして右拳を後ろに大きく振りかぶる。


手が届かない距離なのに・・・一体何をする気だ?


「唸れ・・・!!」


クリスの右拳を中心に空間が歪む。まるで空気の渦がそこにあるかのように集まっていく。


「ブーメラン!!」


クリスが右拳をフックの形で振り回すと、空気の刃が俺に向かって跳んでくる。

「あぶない!」

俺の背後から、何者かが叫んで俺に飛びついてきた。


空気の刃が廊下を飛んでいく。衝撃波が、廊下のガラスを次々と割っていく。空気の刃は誰に当たることもなく、そして・・・勢いを失くして消えた。


「大丈夫ですか?」

寄りかかられた形で倒れた俺を庇ったのは、忍だった。忍も無傷のようだ。

忍が立ち上がろうと身を起こすと―。


ぱさっ。


忍の後ろで束ねた髪が落ちる。それも、些細な長さではない。半分以上の量の髪が切断されていた。

「あ・・・ああ・・・」

忍が廊下に落ちた髪を拾い上げる。そして涙を浮かべていた。


「・・・てめぇ!!」

言いようもない怒りが沸いた俺は、クリスに向かって拳を放つ。実力差は歴然だったがそんなことは関係ない。とにかく俺は怒りでいっぱいだった。


「そこまでにしなさい」

クリスの胸に届く手前で拳が受け止められる。制止したのは、篠田みどりだった。

俺は拳に力を込めるが、まったく動かない。


「これは何の騒ぎ?」

篠田がクリスに問い詰める。

「ただのスキンシップですよ、スキンシップ。転入生と仲良くするために、ね?」

「・・・正直に話しなさい。さもないと、懲罰室へ入れるわよ」

懲罰と聞いてクリスがうっ、とうろたえる。


「篠田先生、いいじゃありませんか」

脇から車田が入ってくる。


「こいつらの決着は、こいつらで決着を付けさせればいい。なんでもかんでも教師が口を挟むべきじゃない」


そう言いながら車田は俺の手から篠田の手を引き離し、俺とクリスの間に入ってくる。

「お前らこそ、決着つけたいだろ?・・・ボクシングで」


「・・・やってやろうじゃねぇかよ、てめぇの土俵でぶっつぶしてやる」

「才能もロクにないジャップが。お前には1ラウンドもいらねぇよ」


「よし決まった!だがなクリス、知立とお前とじゃハンデがありすぎる。勝負は一週間後。それまでにオレがコイツをしごく。いいな?」

「好きにしなよ、クルマダ」





放課後。俺は身支度を終えて帰宅するところだった。


「・・・だから止めときなさいって言ったのに」


神楽さやかが俺に話しかけてくる。

「うっせぇな。大体なんだよ、アイツのあのパンチは。見たことねぇぞ」

「アレが彼のセンス。他の誰にも真似は出来ないわ」


「・・・センス?」

「彼が出したパンチ。あれは昔、日本で流行ったある漫画の必殺技なの。黄金の日本ジュニアと呼ばれたキャラクターたちのね。彼は漫画やアニメの必殺技をイメージして、体現してみせるセンスがあるの」


「・・・はぁ?」俺は信じられないといった顔を見せる。


「もちろんあらゆるものを体現できるわけじゃない。亀仙流のアレだとか、時間を止める超能力だとか、無理なものもある。彼が得意なものはボクシング。だから、ボクシング漫画の中で、あの漫画が一番良いサンプルだった。技を出した瞬間に相手が吹っ飛ぶ、あの漫画ね」


「・・・じゃ、じゃあちょっとまてよ。アイツ、それじゃあ七つの傷を持つあのキャラの必殺技とか、ゴムの腕とか・・・?」

「さすがにゴムは無理でしょうけど、七つの傷の男のあの流派を学ぶことはおそらく可能。彼がボクシングが好きだから興味が無いだけ。わかった?彼の恐ろしさが」


俺はゾッとした。そんなヤツを相手に戦うのか・・・?

「じゃ、せいぜい頑張ってね。私を退屈させないように」

冷笑を浮かべてさやかは教室を出て行く。俺はさやかの話を聞いて、呆然と立ち尽くしていた・・・。





「紺野さん」

下駄箱で靴を取り出そうとした忍に、さやかが話しかける。

「あら神楽さん、お帰りですか?」ニコニコとした笑いで神楽に返答する。

「ずいぶんと平静なのね?髪を切られたというのに」

「ああ、また伸ばせばいいだけですから」

「そう?あれ、ただのウィッグでしょ」

忍の指がぴたりと止まる。忍はさやかのほうを向き、めがねをクイと押し上げる。

「あら?バレてました?」

「知立君が入学するちょっと前からつけてたものね、あのウィッグ。校則違反だけど、関係ないから無視してたけど」

「イメチェンしたくて、こっそりつけてただけです。単なるオシャレってことで」

「ふぅん。でもどういうつもり?あの二人の因縁をハッキリさせるキッカケになったわね、あのウィッグで。あなたがあんな嘘泣きをしなければここまでコトは大きくならなかったはず」

陽の光が反射して、メガネの奥が見えない忍。その唇は、にやりと曲がっていた。

「・・・神楽さん、彼の持ってる”才能”、見たくありませんか?」

「”才能”?」

「彼の父・宗吾がこの学園のトップを握っていたとき、この学園は男子校だった。当時もあのクリスに匹敵するような才能を持っていた連中もゴロゴロいたはず。彼が現れ、入学してたった1年で、圧倒的強さを誇りこの学園のトップとなった。宗吾がどんな人物だったか、ケーゴ君が握っているはず。どんなものか知りたいでしょう?」

「・・・興味はあるわね。わかった。この件は静観しておくわ」

「ご理解いただき、ありがとうございます。神楽さん・・・」

続く。