先日の、文章力対決ということで、コメディを題材として描かせていただきました。
それで今回は、お互いに相手のコメディ作品の設定を使って描こうということになりました。
相手方のはづきさんのコメディ作品はヤンキーネタ。こちらのネタは勇者ネタでございます。
では、お楽しみください。
「ぎゃああああああ!」
「申し訳ありませぬ、姫!」
「すまぬ、妻よ、息子よ・・・ふがいない父を許せ・・・。息子よ、我が意志を継いでくれ・・・」
数々の勇者たちの断末魔が聞かせた我が魔王城。今宵も、新たな勇者が断末魔を響かせる。
「セーブすんの忘れてたーーー」
ふっ。今回の勇者も歯ごたえが無かったな。勇吾は携帯ゲーム機のゲームに興じていた。これはプレイヤーが魔王となり、攻め入る勇者どもを葬るというゲーム。
昔懐かしの2Dドットで描かれるレトロゲーを彷彿とさせるゲームで、なかなかコアなファンからは人気が高い。
世界中から勇者が魔王城に攻め込んでくるが、魔王・勇吾はことごとく勇者の断末魔を轟かせた。プレイヤーは魔王城というダンジョンを作り、魔物を配置し、罠を仕掛け、勇者を迷わせる。魔王自身はHPが1という設定ゆえ、魔王にたどり着かれたらプレイヤーは負けというわけだ。
お約束といえばお約束なのだが、魔王は姫を連れ去っており、それを世界の名だたる勇者たちが救いに行くという話だ。なぜか妻子持ちの勇者も攻め入るのだが、そこは大人の事情だ。
実際のこのゲーム自体はなかなか難しく、思い通りの魔物は作れない。食物連鎖という独特のシステムがあり、強いモンスターを出現させ、増殖させるにはこの食物連鎖の循環を使わなければ強いモンスターといえども餓死してしまう。それに、弱いモンスターといえども大軍で襲い掛かれば勇者の足止めも出来るし、眠らせたり毒状態にすることも可能だ。
それから勇者。このゲームの勇者という敵キャラもなかなかのクセモノだ。ダンジョン突入時こそLV1の弱弱しいステータスなのだが、なんと敵を倒せば加速度的に経験値が加算され、レベルアップするのだ。レベルアップすればHPをはじめとしてステータスが強化され、魔法だの必殺技だのを使えるようになる。雷の魔法「ライベイン」だの、HPを全回復させる「ブルケフィア」、ほとんどの魔物を一撃で倒す必殺技「イナズマストラッシュ」だの「テラブレイク」だのを覚え出すと魔王軍といえども勇者単騎で潰滅させられかねない。
強力な魔物を生むには時間をかけねばならず、しかし余計な戦闘を勇者にさせることでLVが上がってしまうという、なかなか難しいゲームなのだ。魔王が勝利する手段は2通り。勇者を倒すか、もしくは一定時間経過で自動的に召喚される破壊神の出現で勇者を葬るかどちらかだ。
難易度が上がればあがるほど、後者のほうで勝利することは難しくなる。ゆえに、腕前を競うゲーマーたちは前者の「勇者を倒す」という勝利方法でいかにすばやく倒し、ハイスコアを叩きだすか、それに燃えていた。
そして魔王・勇吾のもとに新たな勇者が現れる。今日、ネットで配信された新たな追加勇者だ。
「・・・ミドレンジャー?」
いかにも戦隊モノの端っこに居そうなやつである。想像するに、レッドとピンクが恋人で、ブラックとイエローが恋人で、そしてみにくいアヒルの子のごときメンバーがこのミドレンジャーだろう。2Dドットグラフィックのミドレンジャーはいかにも弱っちそうだ。
勇吾は強力すぎる魔物を使うことはあまり好まない。常にギリギリの戦いを好み、敗北と背中合わせのギリギリの戦いをしていた。ミドレンジャーのステータスは見るからに弱い。そこで勇吾は、スライムを強化し、スライムだけで戦うことにした。リリスだのドラゴンだのスケルトンなどは使わぬ。案の定、大群のスライムはミドレンジャーを取り囲み、あっけなくミドレンジャーは倒れた。
「なんだこいつ。配信されたキャラの割に弱すぎる・・・」
そうして夜が更けていった。
翌朝。夜更かしをしていた勇吾を揺らす何かが揺らしている。母さんか?今日は休日だろ。寝かしてくれよ。
そう思っていると、なにやらおかしい。母親の声ではないのだ。
「勇者様!勇者様!起きてください!」
俺は目を疑った。奇怪な生き物が俺の目の前にいるのだ。蝿よりもやや大きめ、いや小鳥くらいの大きさで、人間の言葉を喋り、ちょっと色っぽいオナゴが羽根を生やしてしゃべっているのだ。RPGをやってる人間ならわかる。フェアリー、妖精とかいう類の生き物だろう。
なんだ夢か。俺は再び布団にもぐりこんだ。
「起きてください!起きてください!」
「俺は起きぬっ!俺を起こしたくばフライパンでも持ってくるがいい!」
そうしてハエを追い払うような仕草をする。夢の分際で俺の安眠を妨害するなど、身の程をしれいっ!
ごすっ!
硬いものでドタマを殴られる。見ると、妖精はフライパンを持っていた。ただし俺は痛烈な痛みがあった。なんせヤツはフライパンの皿の部分ではなく、淵の部分で殴りやがったからだ。当然のことながらコブができる。そしてこの痛みは、夢ではないことが明らかだった。
「なにしやがるこのやろう!」
この生き物がなんであるかという疑問以前に、安眠を妨害されあまつさえコブまで作らされたこの生き物をとっつかまえてフルボッコにすることしか俺の頭になかった。
そこらじゅうにあるものが乱れ飛ぶ空中戦となった。なんせヤツは、俺が蚊でも殺すように叩いても逃げ、殺虫スプレーでも死なない。恐ろしいほどの反射神経でヤツは攻撃をかわす。
「無駄です。あたしを倒せるわけないじゃない。それよりも勇者様、魔王を倒しにいきましょうよ」
なにやら外が騒がしい。道路工事でもやってるのか、ゴゴゴゴゴゴとかいう音が聞こえる。しかし、機械的な音ではない。もっと地鳴りに近い音だった。
そういえばおかしいな、さっきからこれだけ騒いでるのに、両親がこっちに来ない。いつもはうるさいくらいに叱り飛ばすのに。俺は窓を見る。
「なんだありゃ」
最初は公共事業か何かの電波塔かと思った。だが違う。形がおかしい。人、いや鬼のような顔をイメージさせるようなシルエット、まがまがしい配色。急ごしらえのゴテゴテとしたいびつな外装。あきらかに公共物のそれではない。
「この一帯の人間たちはみな連れ去られてしまいました。ダンジョン発掘の作業に駆り出されてるんです。警察も自衛隊も機能してません。あなただけが、魔王を倒せるんです!」
「どうして俺なんだ?」
「えーっと・・・」
妖精はなんだか困ったような顔をしてみせる。
「それは、大人の事情ってやつです!キャラクター設定がそうなってるからそれでいーんです!」
「・・・はぁ」
俺はなんとなく昨晩やったゲームを思い出す。魔王。勇者。妖精。そういえば妖精は、ゲーム中では勇者を魔王城に導く役割をしていたな。
憶測だが、こいつにこれ以上俺が勇者がどうとかという話をしても無駄なんだろう。どういうわけか知らないが、現実にゲームの世界が持ち込まれたという奇怪な現象が目の前で起きている。コイツは俺をダンジョンに導くという役割があるからそうしているだけで、それ以上もそれ以下の存在でもない。つまり、こいつに聞くだけ無駄というわけだ。
せいぜい聞きだせるのは、操作方法とかチュートリアルくらいだろう。
「わかったよ。魔王城に挑んでやる」
妖精が俺の返事を聞いて表情を明るくさせる。・・・こいつ、結構かわいいな。
・・・いかんいかん。俺が惚れるのは人間の女だけだ。人間以外に惚れる趣味などは無い。
「ところで、魔王城には姫ってのがいるんだろ?どんなヤツだ?」
妖精は俺が事情を察したことをこの質問で確信する。妖精は即答する。
「羽柴郁美さんです」
・・・ハァ?( °д°)
俺のよく知ってる女だった。というか、片想い。というか、告白しようと思ったけど踏み切れない。クラスの隣の席に座れた今学期、どれだけ嬉しかったことか。
・・・で、その郁美が姫ってわけか。俺は目を閉じて想いをよぎらせる。
「勇吾!救ってくれたのね!ありがとう!あなたには感謝してもしきれないわ。だから・・・」
「郁美!俺はずっと君のことが・・・」
郁美の顔を俺に迫ってくる。
キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!
これは千載一遇のチャンス!よーし!この機会を利用して郁美を俺のモノにしてやる・・・!ふっふっふ・・・!
俺がドス黒いオーラを燃やすのを感じ取ったのか、妖精は冷ややかな視線を俺に向ける。
「事情はわかった!世界をモノにせんとする魔王め!俺がぶったおしてくれる!」
「その意気です!勇者様!」
「・・・で」
ダンジョンの入り口の前で俺が妖精に質問する。
「なんも装備とかないの?勇者っぽい服とか、剣とか」
「えーっと・・・それは開発の予算の都合で無いみたいです」
これ以上の詮索はおそらく無駄だと悟り、俺はダンジョンの入り口に視線を向ける。
そういえばゲーム中でも、ダンジョン中に剣やら斧やら武器が転がってて、宝箱にも薬草やら魔法の巻物やらがあったよな。スライムごときなら、単体なら素手でも倒せるし、なんとかなるだろう。
「ちなみに、俺のステータスは?」
俺が質問すると、俺の頭上になにやらアルファベットと数字の羅列が浮かび上がる。
「これがあなたのステータスです」
弱い。弱いな。まぁLV1だから仕方ないかもしれんが。
「まぁいい。どうせコンティニューは無制限なんだろ?」
「はい、その通りです。ダンジョン内でセーブフラッグを立てれば、倒されても復活することは可能です。しかし魔王によってセーブフラッグが破壊されることがあります。そうなるとLV1からやり直し。装備も全て捨てられます」
何もかもゲームどおりだな。まぁいい。
俺はダンジョンに入ることにした。
案の定、スライムたちの大群が俺に押し寄せる。こんなのはラクショーだ。早々にフルボッコにして先に進もうとした。しかし―。
どかどか。どかっ!ごすっ!ぶちっ!
「ぎゃあああああ!!」
あっさりと倒された。・・・え?スライムごとき倒せないの?
「うーん、やっぱり難しいですか?勇者ミドレンジャー?」
俺はどっかで聞いた名前を妖精の言葉から思い出す。
「・・・おい、それって・・・」
間違いない、昨日の晩、かる~くフルボッコにしたあのよわっちい勇者だ。弱すぎて話にならんとフルボッコにしたんだった。
「あ、でもでも!最高レベルになれば、全ステータスMAXですよ!65535になるんで!」
それを聞いて、俺はとにかくレベルを上げる作戦に出る。再び挑戦する。しかし―。
「ぐええええええ!」
「だあああああ!」
「・・・・・」
何度も何度も挑戦したのだがダメだった。スライムで倒される。最後のほうなど、断末魔を上げる気力すら沸かなかった。
「うーん、難しいですか?」
「ムズイっていうか・・・無理ゲーじゃねぇの?」
「いやでも、魔王は一応、互角に戦えるようにギリギリの戦力でいつも魔物を設置してるんで・・・」
それを聞いて俺は眉をひそめる。
「なぁ。魔王の名前って・・・?」妖精は即答する。
「魔王ユーゴです」
俺かよ!!
「ちなみに、郁美さんを連れ去ったのはいいんですが、郁美さんに相手にしてもらえず、意気消沈してます。郁美さんはスライムマッサージが肌にいいと聞いて、エステに興じています」
何やってんだ、俺・・・。
そうして俺は今日もダンジョンに挑む。何度も何度も倒されながら―。