「脳外の先生にも見てもらわないとわからないけど、たぶん…脳出血…みたいなんですよね。」
若い女の先生は言った。
CTには、左脳のかなりの範囲に黒く映る部分が写っていたのだという。
「最近、頭ぶつけたりしました?」
…思い当たらない。
抱っこやバウンサーで強めに揺すりはしたかもしれないが、それくらいでは出血は起こらないという。
若い女の先生は、急いで脳外科の先生に連絡。
しばらくして、脳外科の先生がやってきた。
独特な雰囲気で、感情なく淡々としゃべる先生だった。
しばらく、CTの画像を見て、先生二人で何かを話しているようだった。
息子は再び処置室のベッドに寝せられ、酸素の機械を付けられた。
薬も効いて、すっかりよく寝ている。
「脳外の先生からお話があります。」
旦那と二人、別室に呼ばれた。
「たぶん脳出血でいいと思いますが、出血の部分は黒くて血管も見えないので、出血が引かないとと原因はわからないですね。」
感情のない声で淡々と話す先生。
「皮質下だったら… 脳室の… 血管の異常が… 」
他にも自己満足のように専門用語を並べて色々話していたが、私は半分も理解できなかった。
とにかく目の前の、CTの画像が衝撃すぎた。
息子の脳は、左脳の真ん中あたりに大きな黒い何かがあり、それに押し潰されるように、左脳は小さく見えた。
想像もしていなかった息子の頭の中。
絶望。
もう、普通には生きられない、
そう感じた。
しばらく話を聞きながら画像を見つめていたが、ちょっとした違和感がわいてきた。
左脳側の頭蓋骨は右に比べると少し大きく、最近の出血で開いたというよりは、産まれてから少しずつ、何か異物に押されて、左右に差ができてきたような…
「先生、ほんとに最近の出血なんですか?」
もう一度確認してみる。
「黒く映るのは、最近の出血の証拠です。少なくとも、1週間以内でしょう。」
この時は、どこか腑に落ちないまま、この医師の言葉を信じるしかなかった。
知識のない私より、医師の言うことに間違いなどないだろう、と。
結局そのまま入院となり、手続きを済ませ病棟に上がった。
私の絶望的な気持ちをよそに、案内してくれた看護師さんは、おそらく“いつもの”ように笑顔で淡々と病棟内を説明して回り、
脳出血だというのに、なんの緊急性もない様子で、笑いながら息子の体重や身長などを測っていった。
脳出血だというのに、普通に動かし、抱き上げ、着替えさせていた。
私はぼーっとした頭で、こんこんと眠り続ける息子と看護師さんたちを見ていた。
正常心を保つのに、精一杯だった。
案内された部屋は、四人部屋。
個室は開いていなかったのだという。
隣のベッドの子の付き添いのおばあちゃんが、物珍しそうに話しかけてきた。
「可愛いね~。へ~、どこも悪そうに見えないのにね~、分からないもんだね~。どこが悪いの?」
事情を話すと、また「そんなふうに見えないのにね~」と言って、あとは自分の孫の話をしていた。
正直、普通に話しかけられることも違和感があってたまらなかった。
いつ何があってもおかしくないのに、こんなに普通の対応でいいの??
そう思った。
義父母と旦那に頼み、私の付き添い用の服やご飯を買ってきてもらった。
救急で来たので、もちろん何も用意していない。
一通り用意をし終え、旦那と義父母は一旦帰ることにした。
いつのまにか、夜になっていた。
息子と二人きりになってしばらくして、先生たちがぞろぞろやってきた。
旦那と私に話があるということだった。
急いで旦那を呼び戻した。